《門田博光の巻》「打撃の求道者」は練習方法もケタ外れだった…僕が地獄を見た“10分”の要求【ホークス一筋37年 元名物広報が見た「鷹の真実」】
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年12月5日 9時26分
1988(昭和63)年8月27日、40歳の本塁打数新記録、通算史上8位タイの465本を達成する門田博光(C)共同通信社
【ホークス一筋37年 元名物広報が見た「鷹の真実」】#36
門田博光(1)
◇ ◇ ◇
「不惑の大砲」と呼ばれ、南海を象徴する選手だった門田博光さん(享年74)。あれは僕がまだ現役時代の春季キャンプでの話です。
現役投手が打撃投手を務める練習の最中、門田さんにこう言われました。
「田尻、アウトコースに投げた時は、絶対に(ネットに)体隠せよ。全部引っ張るつもりで打つから、外のボールはピッチャー返しになる。絶対に避けられんから」
とはいえ、当時の僕は21歳。若くて気も強く、「そうは言うても、まあ大丈夫、大丈夫」なんて軽い気持ちで外角に投げたら、恐ろしく鋭い打球が体の横を切り裂いていく。まるで反応できません。もし、体に向かって飛んできても、避けるどころじゃない。もちろん、球界を代表する大打者ということは入団前からよく知っていましたが、あの一球で改めて凄さを実感しました。
自分の打撃に自信があり、常に研さんを欠かさない。門田さんがオリックスを経てダイエー時代のホークスに復帰した後、西戸崎の二軍施設でマシン打撃をしている姿を見たことがあります。最初は普通に打っていましたが、打つたびに一歩、また一歩とマシンとの距離を縮めていく。最終的に半分の距離でもカンカン打ち返していました。そんな姿を、後に主力となる吉永幸一郎や、佐々木誠さんが見て、影響を受けるわけです。
ベテラン選手がオープン戦の遠征に同行しない年があり、僕は彼らの練習相手として福岡に残り、打撃投手をこなしていました。途中、門田さんに「田尻、勝負しよう」と言われたので、僕もギアを上げてストライクゾーンめがけて投げる。それを門田さんが打つ。
そんな打撃練習の最後、「おまえフォーク投げられるか?」と聞かれました。応じたところ、「おー、ええフォークや」。その次の言葉に仰天です。
「フォークだけ10分間投げられるか?」
ここからが地獄の始まりでした(笑)。僕のフォークは人さし指と中指の間にボールを深く挟むタイプ。それを10分間、60球は投げ続けなければいけない。ムチャもいいところで今思えば、よくあんなことができたと自分で自分に感心するほどです。
投げ終わった後は指が開いたまま。門田さんは「最後はまっすぐいこうか」と言いましたが、僕は「すいません。指が広がって戻らないんで、2、3分待っててください」と、必死で指を閉じようと悪戦苦闘しました。
とにかく打撃に関しては妥協をせず、時には人を巻き込むことも辞さない。次回はそんな門田さんに思いもよらぬ「お小遣い」をもらった話をしましょう。
(田尻一郎/元ソフトバンクホークス広報)
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