イメージが先行…「胃ろう」は決して“悪者”ではない【高齢者の正しいクスリとの付き合い方】
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年12月7日 9時26分
正しく選択されれば、胃ろうは有用な方法(C)iStock
【高齢者の正しいクスリとの付き合い方】
クスリの投与方法のひとつ「簡易懸濁法」についてお話しする前に、どうしてもお伝えしなければならないことがあります。「胃ろう」についてです。みなさんは、「胃ろう」と聞くとどのようなイメージを持たれるでしょうか? なんとなく悪いイメージがあり、「自分だったらやりたくない」という方もいらっしゃるでしょう。今回は、胃ろうについて私が思うところも含めてお話しします。
胃ろうとは腹部と胃をひっつけてそこに穴(瘻孔=ろうこう=といいます)を開け、チューブを通したものをいいます。超高齢者などで物をのみ込む力が低下した状態のことを嚥下(えんげ)障害といいますが、それによって食べ物が気管に入ってしまう、いわゆる誤嚥をしてしまうような場合に、胃ろうは選択されます。チューブを介して栄養を直接胃に入れることになるので、胃ろうでは液体の栄養剤が必要です。
私の感覚ですが、どちらかというと胃ろうは忌み嫌われていると思います。その要因のひとつは、一時期「胃ろうは悪者だ」という論調が一部のメディアにあったことが挙げられます。そうでなくても、「お腹に穴を開けるなんて」とか「口から食べられないなんて」といった考えをお持ちの方もいらっしゃるでしょう。私はここに少し誤解があると考えています。まず、確かにお腹に穴は開きますが、これは「口がお腹に移動してきた」という認識のほうが正しいです。それにより、食べ物が誤って気管に入るリスクを回避できます。
通常の食事と同様に消化管を介して栄養を投与することになるので、実は胃ろうは生理的な栄養投与方法なのです。それに比べると、点滴はまったく生理的ではありません。口がお腹に移動してきているだけなので、当然消毒なども必要ありません。みなさんは食事をした後、口の周りを消毒なんてしませんよね。それと同じことです。
もうひとつ、「胃ろうにしたら二度と口から食べられない」というイメージも必ずしも正しくはありません。嚥下障害を起こすような超高齢者の中には、“食べる体力がない”方もいらっしゃいます。そうした方は、胃ろうをつくってそこから十分な栄養補給をしつつ嚥下訓練をすることで、再び口から食べることができるケースもあります。これを「食べるための胃ろう」といいます。食べられるようになって胃ろうが不要になったら、チューブを抜いてしまえば瘻孔は自然に塞がります。ですので、胃ろうは決して最終手段ではないのです。
今回の話は、すべての人に当てはまるものではありませんし、どんなことがあっても胃ろうを勧めるものでもありません。一方で、イメージだけで胃ろうが悪者になってしまうのも違うと思います。正しく選択されれば、胃ろうはとても有用な方法だということを知っていただきたかったのです。
(東敬一朗/石川県・金沢市「浅ノ川総合病院」薬剤部主任。薬剤師)
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