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韓国という国がなぜか羨ましい…大統領の暴挙にすぐ立ち上がった市民の意識(元木昌彦/「週刊現代」「フライデー」元編集長)

日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年12月14日 13時32分

韓国という国がなぜか羨ましい…大統領の暴挙にすぐ立ち上がった市民の意識(元木昌彦/「週刊現代」「フライデー」元編集長)

夫人のためにやった?(韓国の尹錫悦大統領と金建希夫人)/(C)日刊ゲンダイ

【週刊誌からみた「ニッポンの後退」】

 私が北朝鮮に行ったのは1985年の5月だった。

 金日成が君臨し、レーガン・中曽根・全斗煥といわれていた時代であった。一人で1カ月間という条件。後で知ったのだが、民間人としては作家の小田実以来の準国賓待遇だった。

 拉致問題は一部の新聞が報じていたが、緒に就いたばかりであった。視線が体に突き刺さってくる感覚を、ピョンヤンの街なかを一人で歩いた時に初めて知った。

 だが、多くの北の人たちと話してみて「祖国統一」にかける情熱だけは本物だと感じた。あれから40年近くが経ち、北朝鮮は核を保有し、ICBM級を発射する国になったが、私には北が同じ祖国である“南鮮”を武力で侵略し、市民を殺戮(さつりく)しようと考えているとは、今でも思えない。

 その5年前の1980年、韓国で起きた「光州事件」を知ったのは、北の政府の役人たちと話していた時だった。

 独裁を続けていた朴正煕(パク・チョンヒ)大統領が暗殺され、束の間、市民は取り戻した民主主義を謳歌(おうか)していた。「ソウルの春」といわれたが、朴に師事していた全が軍事クーデターを起こして再び暗黒の独裁政権ができてしまった。全は戒厳令を敷いたため、多数の市民が立ち上がって抗議したが、全の命令で軍が発砲し3000人以上の死傷者を出したというのである。

 帰国して事件の資料を探したり、韓国の人間から話を聞いたが、情報は極めて少なかった。

 その全が退陣して、韓国は民主主義の優等生といわれるくらいまでになった。ネットの普及で市民メディアが大統領選まで左右する力を持ってきた。だが、朴の娘・朴槿恵が退陣するまで光州事件について大っぴらに語ることはタブー視されてきたようだ。

 先週の12月3日、韓国の市民たちにあの「悪夢」を思い起こさせる事態が出来したのである。尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が突然、民主主義を封殺する「非常戒厳」を宣言したのだ。

 国会は野党が多数のため「政治が停滞している」ことが理由だといわれるが、一説には「妻の金建希(キム・ゴンヒ)がドイツ車の輸入販売会社の株価を不正に操作」した疑惑で、彼女の捜査を行う法律が10日に成立するのを阻止しようとしたのではないかともいわれているようだ。支持率も10%台まで落ち、破れかぶれの末の暴挙だったのか。

 韓国の憲法では、国会で決議すれば戒厳令を解除できると定められてはいる。だが、それよりも、戒厳令と聞いて市民がすぐに反応し、反対するデモが国会前を埋め尽くした。野党も弾劾訴追に動いた。尹はわずか6時間後に非常戒厳を解除せざるを得なくなった。

 しかし、尹や、リベラルな野党政権ができれば冷や飯を食うといわれる軍が、クーデターを起こす可能性はゼロではないといわれる。たった一人の暴君が暴走すれば民主主義はもろくも崩れ去るのだ。

 ノーベル文学賞を受賞したハン・ガンは「少年が来る」で光州事件について書いている。ハンは今回の事態を見て、「死を迎えた無辜(むこ)の人々の魂が現在の人々を助けようとしているような、亡くなった『少年』が返ってきているような感覚」をもったと語っている。

 過去に学び、二度と過ちを繰り返さないために立ち上がる市民がいる国。過去に学ばず、悪政にも市民が立ち上がらないこの国。

 尹は即刻退陣すべきだが、危機を察知して行動に移す多くの市民たちがいる韓国を、私は羨ましく思う。(文中敬称略)

(元木昌彦/「週刊現代」「フライデー」元編集長)

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