菅井きんさん 終始照れながら話す姿の奥に潜む底知れぬ“凄み”を感じた(本多正識/漫才作家)
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年12月21日 9時26分
菅井きん(C)共同通信社
【お笑い界 偉人・奇人・変人伝】#223
菅井きん
◇ ◇ ◇
ドラマ「必殺シリーズ」で藤田まことさんの“ムコ殿”をいびる姑役で存在感を発揮された菅井きんさん。あの決まり文句「ムコ殿」をどういう言い方にすれば、よりイヤミに聞こえるかいろんな言い方を研究され、藤田まことさんからも「それ強烈ですわ!」とお墨付きをもらって使っていたと笑ってらっしゃいました。
番組のゲストでお会いした菅井さんはあの憎々しげな姑役が想像もつかない物腰の柔らかい上品な方でした。
「お芝居ならどんな役でも大丈夫なんですけど、フリートークができますかどうか。不安でドキドキしております」と本番に入っても終始控えめ。(トミーズの)雅くんの「女優さんになる前は何をされてたんですか?」という問いに「実は東京大学におりました」「え! 東大ですか?」「事務の職員ですよ」「東大生ちゃうねや!」「私なんかが入れるわけがありません!」「実は言わはるから学生や思いますやん!」「失礼しました」と“エヘッ”と舌を出されてスタジオは大爆笑。「東京大学に」が見事なカウンターパンチになった瞬間でした。思いもよらないワードにお笑いの基本を見た思いでした。
大学職員という安定した職に就いても、役者の夢をあきらめきれず、お父さんに役者になりたいと告げると「女の役者は美人がなるもんだ」と相手にもしてもらえなかったけれども劇団に入団。父親の言うことは絶対という時代に頑として自分の意思を貫かれたメンタルの強さは計り知れません。この方のどこに時代にあらがうパワーがあったのか? 仕事を捨て、退路を断って役者の道を追い求めた執念のような思い、終始控えめで照れながら話される姿の奥に潜む底知れぬ“凄み”を感じました。
勝手な推測ですが、菅井さんは役者であることに自分が生きている存在意義を見いだされていたから、どんな役でも存在感があったのではないでしょうか。
82歳で世界最高齢の主演女優にも認定されましたが、今も天国で多くの先人のみなさんと芸談に花を咲かせていらっしゃることでしょう。
(本多正識/漫才作家)
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