ひとつの時代の終わりを告げた唐十郎の逝去…演劇界の2024年を振り返る
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年12月21日 9時26分
勘九郎と寺島しのぶ(C)石澤瑤祠
【演劇えんま帳】
今年は各界の著名人の訃報が多かったが、演劇界ではアングラ演劇の巨星・唐十郎(享年84=写真)と小劇場演劇界の異才・天野天街(同64)の相次ぐ死が惜しまれた。
唐は1967年に新宿・花園神社に状況劇場、通称紅(あか)テントをひっさげて登場。役者の個性に重きを置く独自の「特権的肉体論」は旧態依然とした新劇に大きな衝撃を与え、寺山修司の「天井桟敷」、鈴木忠志の「早稲田小劇場」、佐藤信の「黒テント」と共に4大アングラ劇団のひとつとして華々しく活動した。新宿中央公園での警官隊に包囲されながらの無許可公演(69年)、また、戒厳令下の韓国、バングラデシュ、シリア、パレスチナ難民キャンプ(72~74年)など、世界の紛争地域でのゲリラ公演を敢行し、演劇を「事件」にした。
戦後の現代演劇は「唐以前、唐以降」に分けられると言っても過言ではない。
亡くなった5月4日は唐が終生、「兄貴」と慕った寺山修司の命日であり、主宰する唐組公演「泥人魚」の花園神社公演初日前日という不思議な巡り合わせだった。
図らずも唐十郎追悼公演となった新宿梁山泊の「おちょこの傘持つメリー・ポピンズ」(作=唐十郎、演出=金守珍、左写真)は中村勘九郎、寺島しのぶ、豊川悦司、風間杜夫、六平直政ら斯界の大物俳優がテント芝居で共演するということで大きな話題となった。10月には赤坂サカスで唐十郎作の「ジャガーの眼」で赤坂初のテント公演を行った。その活躍から今年度の第59回紀伊國屋演劇賞団体賞を受賞したのも当然か。
7月7日に肺がんのために亡くなった少年王者舘の演出家・天野天街は映像や音楽、言葉遊びを駆使し、生と死の「間(あわい)」を飛翔するイメージの魔術師として唯一無二の「天野ワールド」を展開した。天野の不在は演劇界にとって大きな損失といえる。
39年間、夏の風物詩として親しまれてきた椿組の新宿花園神社野外公演が今年で終了、中上健次作のスペクタクル活劇「かなかぬち」が最終公演となった。
終わりといえば、劇団俳優座のホームグラウンドで、70年間、演劇界の殿堂として多くの劇団に利用されてきた六本木の俳優座劇場が来年4月で閉館。俳優座公演の最後となる「慟哭のリア」(11月)で劇団生え抜きの女優・岩崎加根子がリア王を女性として演じ、圧倒的な存在感を見せつけた。紀伊國屋演劇賞個人賞受賞が俳優座劇場への“恩返し”となった。
(山田勝仁/演劇ジャーナリスト)
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