メディアによる球団経営の功罪…ウォルト・ディズニー社は「ディズニーランドもどき」で大失敗(友成那智)
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年12月25日 9時26分
大谷翔平とエンゼルスのモレノ・オーナー(C)共同通信社
【メジャーリーグ通信】
巨人軍の元オーナーで読売新聞グループ本社主筆の渡辺恒雄氏が98歳で亡くなった。メジャーでは巨大メディア企業が球団を買収して経営に乗り出すと失敗するのは珍しくない。
米国テレビ業界のリーディング企業だったCBS放送は1965年にヤンキースを買収、経営に乗り出したが、効果的な資金の投じ方を知らないためチームは低迷。一度もプレーオフに進出できないまま73年に五大湖地方のスタインブレナーという造船業者にたった1000万ドル(当時約27億7000万円)で投げ売りする羽目になった。
映画、テレビ制作も行うウォルト・ディズニー社はディズニーランドのすぐ近くに本拠を置くエンゼルスを96年に1億2000万ドル(同130億円)で買収し経営に乗り出した。外野席の一部を潰してディズニーランドの「冒険の国」のような巨大な岩の間を小川が流れる「ディズニーランドもどき」を創出、ディズニー色を前面に出した球団経営を行った。しかし、年俸高騰などで経費がかかりすぎるため、ワールドシリーズを制覇した翌年の03年に、看板広告で財を成したアルトゥーロ・モレノ氏に1億8000万ドル(同212億円)で売却。この時期は球団の買収額が急騰していたため、前年の02年にレッドソックスは6億6000万ドル(同818億円)で買収された。
レッドソックスと球団評価額がさほど変わらぬエンゼルスには少なくとも4億ドル以上の値が付くと見る向きが多かったが、最終的に買収額がその半分にも満たなかったのは、外野の「ディズニーランドもどき」の撤去費用がネックになったからだ。こうしてエンゼルスを格安で購入したモレノ氏は「ディズニーランドもどき」を撤去しないまま球場を使い続けた。
メディア企業でも、独創性のある起業家が球団を買収した場合はうまくいく。ケーブルテレビ会社を創業したターナーは映画の名作を買い集めて多くの契約者を得ていたが、スポーツファンを取り込むには球団経営に乗り出すしかないと考え、76年にアトランタ・ブレーブスを1200万ドル(同35億円)で買収。米国の深南部5州には球団が1つしかなく、どこへ行ってもブレーブスの忠実なファンばかりのため、テレビ放映権を独占的に持てば、ファンはターナーのケーブル局に加入して見るしかないと考えたのだ。
結果はその狙い通りになり、ブレーブスは加入者増に貢献。それで得た巨額の利益をもとに世界初のニュース専門チャンネルCNNを設立し、放送業界の革命児となった。
ターナーはブレーブスを強くすることにも注力したため、90年代には常勝軍団になり、07年にブレーブスを売却した際の価格は15億ドル(同1725億円)だった。31年の間に球団価値は125倍になっていたのだ。
(友成那智/スポーツライター)
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