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突然母が別人になった(8)このまま改善していくのでは…愚かにもぬか喜びをしてしまった

日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年12月25日 9時26分

突然母が別人になった(8)このまま改善していくのでは…愚かにもぬか喜びをしてしまった

廃車処分することになった母の車(如月サラさん提供)

 熱中症で入院することになった母の手続きのため、東京から急きょ、日帰りで帰省した私。コロナ禍で母の顔を見ることもできず、入院費用がどれだけかかるのかもわからず、今後のことを考えると気が重くなってきた。

 しかも父は、断固として母の入院を受け入れようとせず、勝手なことをするなと激怒する。父の感情を振り切るようにして私は実家を後にした。

 ガレージには車検を済ませたばかりの母の車が止まっていた。幼い頃から、どこに行くにも車で送り迎えをしてくれた運転上手な母。あれこれの場所が、頭をよぎる。ピアノ教室。学校。お気に入りのレストラン。ホームセンター。家族3人で遠出した海や山。すっかり大人になってからも、帰省時に街中に飲みに出かけた私を、遅い時間に店まで迎えに来てくれることもたびたびだった。母の運転する車に乗ることはもう二度とないのだろうな。そう考えると胸が締め付けられるようだった。

 この日の気温は34.8度、天気は快晴。この暑い、混乱を極めた夏の一日を忘れることは決してないだろうと思いながら、空港へ向かうバスに乗り込んだ。

 実はこの頃には私のストレスがかなり大きくなっていた。度重なる急な帰省で生活のリズムや仕事のスケジュールはガタガタだ。東京から熊本まで飛行機で片道1時間40分。東京の自宅から実家までは4時間かかる。長時間の移動で体の疲労も激しい。

 しかし幸いなことに、3年前に会社を辞め、大学院で学生生活を送ったのちフリーランスの編集者兼もの書きとして仕事を始めており、締め切りさえ守ればかなりスケジュールに融通を利かせることができたのはよかった。

 東京から母の入院先に電話をかけると、「入院当初のせん妄はもうないようで、話もしっかりしていらっしゃるし、歩行にも問題がなくなりましたよ」と看護師は言う。

 母は、認知症の症状がはっきり出てきた頃からおそらく数カ月にわたるセルフネグレクト状態(自分自身の世話を放棄すること)で、これまで極度の脱水と栄養不足に陥っていたはずだ。入院して規則正しく生活すればそんなにも状況が良くなるのか、認知症だと思っていたのは勘違いだったのではないかと、愚かにも私はぬか喜びをしてしまった。(つづく)

▽如月サラ エッセイスト。東京で猫5匹と暮らす。認知症の熊本の母親を遠距離介護中。著書に父親の孤独死の顛末をつづった「父がひとりで死んでいた」。

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