平和から乱世の世へ。「光る君へ」のラストシーンは文学への覚悟を問われているようだった(ラサール石井/タレント)
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年12月26日 9時26分
吉高由里子(C)日刊ゲンダイ
【ラサール石井 東憤西笑】#236
1週遅れて申し訳ないが、大河ドラマ「光る君へ」の話だ。この流れからいくと次回M-1グランプリについて書くことになりそうで、すみません。
ついに最終回を迎えた「光る君へ」。1回目からずっと欠かさず見てきた。実に面白かった。と言ってもこういう話は、ほんと見てなかった人に伝えるのはかなり難しいのだが、まあアーカイブもある時代ですから、ぜひ今からでも見ていただきたい。
放送開始直後は視聴率歴代ワースト2位とか言われ、合戦のない平安時代で何を描くのかと批判されたが、最初からもうそれはそれはかなりの面白さであった。大石静氏の毎回うならせられる見事な脚本と的確な演出、そして俳優陣の素晴らしい演技。それも過去の大河のような大芝居ではない、間や目線、表情で見せる繊細な心理の襞が視聴者の心を掴んだ。
前半の面白さは宮廷内の政権争い、その権謀術数。これは天皇とそれに仕える貴族のファミリーの物語であり、大石氏ははっきりと「ゴッドファーザーをやろうと思った」と言っている。これが功を奏した。チャンバラや合戦の派手なアクションシーンはなくても、毎回ハラハラドキドキの展開と一話に必ず1回は大きな芝居場があり、グッと引き込まれる。
紫式部の母の死や道長との出会い、そして恋、清少納言との友情など、おそらく史実にはなかった創作が見事に展開をドラマチックにし、また大きな伏線となってうねっていく。そこら辺「あり得ない」と否定する向きもあるが、それでは歴史ドラマは作れない。実際記録にある歴史は一切変えずに、その書かれていない裏側に想像力を働かせる。ここに歴史物の醍醐味がある。何より素晴らしいのは、シーンとシーンのつながりが出来事でつらなるのではなく、登場人物の心理で積み重ねられていることだ。
後半は源氏物語執筆と人間模様。NHKらしからぬエロチックな展開もさらりと大胆にかつ優雅に描かれていた。
物語を書き切って「もう書くものがない」と呟く式部の虚脱感。そして最終話のタイトル「物語の先に」。死に近づく道長に生きる希望をもたせるため枕元で語って聞かせる物語。書き手としての大石氏が式部に自分を重ね合わせ、物語の力に希望を見る。
最後に老いた清少納言と式部の2人が語り合うシーンは劇団二兎社で共に競った戦友、永井愛氏と大石氏がしゃべっているようだった。
ラストは迫り来る戦乱の時代を予感させて終わる。平和から戦乱へ。その中で物語が文学が、いったいどうすればよいのか。問われているようなラストであった。
(ラサール石井/タレント)
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