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家族が認知症を発症したという現実を受け止められない【老親・家族 在宅での看取り方】

日刊ゲンダイDIGITAL / 2025年1月15日 9時26分

家族が認知症を発症したという現実を受け止められない【老親・家族 在宅での看取り方】

現状を正しく認識してもらうこと

【老親・家族 在宅での看取り方】#126

 先日、書籍を紹介するテレビ番組で有吉佐和子さんの小説「恍惚の人」が紹介されていました。

 出版時の1972年では珍しい、仕事と家事を両立させている女性が認知症を患った舅(しゅうと)を介護する話で、タイトルが流行語にもなるほどベストセラーになりました。何度もテレビドラマ化されており、内容を知っている人も多いのではないでしょうか。

 当時は介護サービスや社会福祉制度も充実していなかった時代。しかし改めて、現代でも通じる介護の課題を浮き彫りにした描写が多いと感じさせられました。

 主人公の昭子は銀座の法律事務所で働いており、離れには舅が住んでいます。ある日のこと昭子が離れに行くと舅が「ばあさん(姑)がなかなか起きなくて。まったくばあさんはいつまで寝ているんだ」と言い、昭子はすでに亡くなり冷たくなっている姑を発見します。

 夜中にトイレに行きたいからと舅に外から扉を叩かれ、起こされた昭子がトイレに案内しようとするも、間に合わず庭で放尿するなど、本書は認知症が悪化する舅の様子を詳細に描いており、またそれに対する昭子の旦那と息子のそれぞれの様子も印象深く描写されています。

 夫は「申し訳ない、ありがとう」とは言うものの、介護に全く関わらない。「俺もこうなるのか」と、ただただ悲観するだけです。昭子は夫に対し、怒りや嫌悪感を感じ始めます。

 一方18歳になる息子は「いやだなぁ。こんなにしてまで生きたいものかな」「パパも、ママも、こんなに長生きしないでね」。その後に舅が亡くなり、葬儀が終わったときには昭子に「もうちょっと生かしておいてもよかったね」と他人事のように言い放ちます。

 この「恍惚の人」の中では、「老後」「介護」「生死観」「哲学」などの要素があふれています。介護に対して目を背ける夫や冷めた様子の息子など、人間の老いを前に、家族のそれぞれの対応もこの小説の中で鮮明に描かれ、考えさせられます。

 しかし私たちが在宅医療の現場で見聞きする、認知症に関わる各ご家族の現実の対応はもっと複雑です。

 在宅医療を開始される認知症の患者さんのご家族においても、これまで一緒に生活していた親や祖父母が認知症を患っているという、その現実をなかなか受け入れられないというご家族は少なくありません。

 ある女性は認知症によるせん妄が激しく、ひどく騒ぎ、暴言を吐くことが頻繁にありました。

 それでも介護にあたる娘さんは、「ハキハキ話しているんです!」「自分に合う薬は覚えているんです!」と、自分の母親が認知症である現実を受け止めきれません。

 その場合まず最初に私たちがやることは、現状を正しく認識してもらうこと。自宅での療養を始めるには、そこを回避できません。

 患者さんに対する認識をひとつにするためには、ご家族の心のケアから始めることも必要なのです。

(下山祐人/あけぼの診療所院長)

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