狭心症の原因は不明…10年ごとに冠動脈CT検査を【心臓外科医が教える患者のための基礎知識】#2
日刊ゲンダイDIGITAL / 2025年1月16日 9時26分
10年ごとに冠動脈CT検査を
記者が尋ねます。
「狭心症ってどんな症状ですか」
アホな質問です。そんなもの言葉で言い表せません。
今この瞬間も、世界中の病院で患者は医者の前で、自分の症状を一生懸命伝えようとしていますが、病気の症状なんて人それぞれ。言葉にしたらそれぞれ違います。
「何があなたを病院に来させたのですか?」と医者に聞かれたら、患者が答えるべき100点満点の正解は「なんだかわからないけれども不安なんです」。そう、不安だから患者は病院にやってきて、長い時間待たされても我慢して、検査を受けて、断腸の思いで態度の悪い医者に対面しているのです。
さて、今回は狭心症という病気の話です。心臓発作を起こすので有名な、そしてクリントン元アメリカ大統領など、歴史上の有名人も数多く罹患している病気です。
狭心症が出てくる映画に「ドクトル・ジバゴ」があります。路面電車の車窓から主人公の医師ユーリはかつての恋人のラーラを見つけます。あわてて下車して追いかけますが、左顎、左肩、左手にかけて激しい痛みが襲い、路上に倒れこんでしまいます。オマー・シャリフによって演じられた典型的な狭心症発作です。人類最高の傑作映像作品です。
狭心症は心臓の表面にある、わずか2ミリ程度の冠動脈という血管が詰まってきて起こります。狭心症になるのは、悪玉コレステロールの血液中の濃度が高い人、糖尿や肥満などごちゃごちゃ言われていますが、原因は不明です。従って、決定的な予防法はありません。
狭心症は心臓が困っているときに「痛み」でサインを送るとされています。私が医学部にいたときは「焼け火箸を胸の真ん中にあてられたような痛み」という文学的なレトリックで表現されていました。心臓君がどんなに苦しくても黙って我慢してぜんぜん教えてくれない「無症候性狭心症」というのもあります。実にややこしい。
治療はカテーテルでエントツ掃除のように流れが悪くなった血管の通りをよくする方法と、冠動脈バイパス手術という、流れが悪くなった冠動脈の下流に別の血管の迂回路を増設する工事を行う方法があります。
こんな手術を受けなければならない患者の血管はボロボロです。私は「ボロボロの血管を修理する」という技術を求道してきた職人ですが、「こんな状態になる前に病気の進行を食い止めることができなかったのか」と毎度思います。
胃がんなら胃カメラ、冠動脈なら冠動脈CTです。胃カメラは毎年受けることが推奨されますが、冠動脈CT検査は40歳、50歳、60歳の、10年ごとに受けて「病変の兆候」のあるなしや程度をつかまえればその後を予測できます。この検査で兆候が全くないなら、この病気におびえる必要は全くありません。
ちなみに検査の画像は説明を受けるとき、必ず写メで撮って自分で保存しておきましょう。人口減少のご時世、これから病院もどんどんつぶれてなくなりますから。
(南渕明宏/昭和大教授)
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