俳優・山崎努さんはステージ4から回復 食道がんでの高齢者に負担のない治療選択【中川恵一 がんサバイバーの知恵】
日刊ゲンダイDIGITAL / 2025年1月18日 9時26分
山崎努さん(C)日刊ゲンダイ
【Dr.中川 がんサバイバーの知恵】
俳優の山崎努さん(88)がステージ4の食道がんで闘病されていたことを月刊文芸春秋に語り、話題を呼んでいます。幸い治療を終えたいまは、すっかり元気になられたようで何よりです。
文芸春秋によると、胆のうの痛みで受診。そのときの担当医に食べ物ののみ込みにくさを伝えたことから精密検査を受けるように言われ、食道がんが判明したそうです。一緒に医師の説明を聞いていた娘さんの励ましで「行けるところまで行ってみるか」と思い、「放射線治療だろうが化学療法だろうが、素直に医者の指示に従ったよ」とふり返っています。
当時87歳。一般の方は高齢でがんが見つかりながら、がんが劇的に良くなることは意外に思われるかもしれません。決してそんなことはなく、少なからずあります。私の恩師・養老孟司東大名誉教授も86歳で肺小細胞がんになられ、抗がん剤と放射線治療で回復されました。“高齢になるとがんができない、進行が遅い”は根拠なき迷信ですが、適切な治療を受ければ高齢でもしっかりと回復するのです。
食道がんの場合、早期なら内視鏡切除をはじめ手術もありますが、開腹手術は外科手術の中でも大がかりで高齢者には肉体的な負担が重い。一方、山崎さんも受けられた放射線治療と化学療法を組み合わせる化学放射線療法は、臓器を温存できる点で負担が軽い。ステージ4でも、遠隔転移のない4aなら化学放射線療法での回復は十分可能です。
もちろん、抗がん剤にも放射線にも副作用はあります。そのつらさは山崎さんも語っていて、抗がん剤ではめまいと吐き気で立てないことがつらかったそうです。放射線では食道の粘膜がただれるため、その回復を図り、一時的に胃ろうを設けるため、食事ができなくなります。チューブで栄養は補いますが、食事ができず、体重は一時的に20キロも落ちたそうです。
しかし、治療を乗り越えることができました。その要因の一つは、抗がん剤の量の調節があると思います。文芸春秋には、抗がん剤の量は途中で「通常の6、7割」に減量され、最後の1回は「半分ぐらい」と記されています。化学療法の担当医が山崎さんの年齢や体力をこまめにチェックしながら投与量を調整していたことが見て取れます。
高齢社会の今、山崎さんのような治療選択はとても重要です。男性の前立腺がんなどでも、遠隔転移がなければ放射線で完治が見込めます。副作用の一つ直腸粘膜の炎症も、放射線を患部に集中させることで軽減可能ですから。
(中川恵一/東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授)
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