1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

急性大動脈解離の手術は心臓外科医でも受けたくない【心臓外科医が教える患者のための基礎知識】#4

日刊ゲンダイDIGITAL / 2025年1月18日 9時26分

急性大動脈解離の手術は心臓外科医でも受けたくない【心臓外科医が教える患者のための基礎知識】#4

前触れなく原因不明

【心臓外科医が教える患者のための基礎知識】#4

 突然、大動脈が破裂する急性大動脈解離という病気があります。数々の有名人が、この病気になったことが報道されているので、ご存じの方も多いことでしょう。

 しかし、人は病気の話を聞いても他人事で済ませてしまいます。何度聞いても、アタマに残っていない人も多いと思います。同窓会で「俺たちのクラスでもう3人死んでるよ」とか話題になっても、「そうだっけかなぁ。考えてみたことなかったなぁ」。

 我が国の伝統的な文化なのでしょうか。「人は知りたくないことを知らないでいる権利がある」と考えている人は多いようです。

 急性大動脈解離は、何の前触れもありません。原因はまったく不明です。何とも理不尽です。突然、大動脈が破裂するのです。大動脈が破裂しても、外側にある薄い皮がぎりぎり大出血をさせないでとどめてくれることがあります。この状態は大動脈の壁が二重に割れている状態とも言えます。そこでこの状態を「解離」と呼んでいるのです。「破裂って呼べばいいじゃないか!」と思いますが、企業の税金ごまかしは「粉飾決算」ではなく「不適切経理」、「汚染水」では絶対になく「処理水」、警察の不祥事隠蔽は「コミュニケーション不足」と呼ぶのと同じみたいです。

 すぐに病院に担ぎ込まれて手術を受ければ、半分以上助かる場合がありますが、手術で命を取り留めても下半身がマヒする場合など、さまざまな不運に見舞われる可能性があります。急性大動脈解離になったら、その運命を受け入れるしかありません。

 私が34歳の時に責任者として心臓外科を任された病院に、50代の女性がこの病気を疑われて運び込まれてきました。正月の4日でした。一晩中かかってなんとか割れてふにゃふにゃになってしまっている大動脈を人工血管に取り換えました。そこいら中からにじみ出す出血に手間取り、とんでもない時間がかかりました。でも患者さんは助かりました。

 数日後、研修医に「大変な手術でしたね。感動しました」などと言われましたが、「何を言ってるんだ! あんなみっともない手術」と怒鳴りつけたことを覚えています。つい先日、その患者さまのお嬢さまから「33年の命を頂いた」と感謝を込めたお知らせが届きました。

 40代の建設業の男性が職場から運び込まれてきた時のことです。手術を前に奥さんにとんでもないリスクを伴う大手術だと説明しました。すると奥さんは「今、会社が大変な時なんです。来週には仕事に戻れますか?」。

 急性大動脈解離は、いろいろな意味で本当に大変な手術です。心臓外科医にアンケート調査したら「手術したくない病気」「自分が受けたくない手術」の第1位になることは間違いないでしょう。今、外科医になろうとする若者が激減しています。急性大動脈解離の手術は厚生労働省の陰謀で、あと数年でこの国では行われなくなると予想します。

(南渕明宏/昭和大教授)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください