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心臓弁膜症の手術は心臓を停止して行われる…1日10万回開閉する弁が壊れる【心臓外科医が教える患者のための基礎知識】

日刊ゲンダイDIGITAL / 2025年1月21日 9時26分

心臓弁膜症の手術は心臓を停止して行われる…1日10万回開閉する弁が壊れる【心臓外科医が教える患者のための基礎知識】

傷口を短くすることで命も短くしてしまうことも…(C)iStock

【心臓外科医が教える患者のための基礎知識】#5

 心臓弁膜症という、これまた変な名前の病気があります。「弁膜って何?」と聞かれても知りません。心臓の弁が物理的に壊れて血液が逆流したりする病気ですから、普通の医師は「僧帽弁閉鎖不全症」、または「構造的変性疾患群」と呼んでいます。

 きっと、むかしむかし、トーダイかどっかのそれはそれはエライエライ先生が御命名なされ、奉りあそばされ、給うたのでしょう。ですから文化遺産好きの人を除き、普通の医者は「弁膜症」などとは言わないのです。

 心臓の弁がなぜ壊れるのか? わかりません。1日に10万回も開いたり閉じたりしていますから、持たなかったということなのでしょう。バイ菌に感染して起こることもあります。ではなんでバイ菌に感染したの? と聞かれれば、これまたわかりませんとしか答えようがありません。

 なる人とならない人がいるという現実も、説明などできません。医者はだれしも、目の前の患者の「なんでこんな病気になったんですか?」という疑問に答えることなどできないのです。

 これをうまく理解する言説に最近、出くわしました。スピノザという17世紀のオランダのユダヤ人の哲学者です。

「目の前の出来事は、すべてが原因であり、何らかの出来事の結果ではない」という考え方です。これは「目の前の出来事の原因を探っても意味はない」という考え方です。スピノザはさらに「その出来事があなたの目の前で今現実に起こっているのは神の仕業である」と説きます。なるほど、わかったようなわからないような。私はスピノザのこの考え方によって、「ネコがどうしてこんなにかわいいのか?」という問いの答えを得た気がしました。

 さて、僧帽弁は上唇と下唇のような2枚の弁尖でできています。閉鎖不全症では漏れている箇所は、たいがい1カ所だけ。歯医者さんで麻酔をしてもらって治療を受けた後、唇の一角がしばらく麻痺をしていて、水を口に含んだらそこから漏れてしまう。これと似たような現象が僧帽弁に起こっているのです。漏れているところを切り取って縫い合わせて「なかったこと」にしてしまう、という手術が僧帽弁形成術です。たいがい、これで治ります。つまり人工弁に換えなくても大丈夫、ということです。この手術は人工心肺(心臓と肺の働きをする装置)を必要とし、必ず心臓を停止させなければならない、というものです。

「小さい傷(切開)でやりましょう」などと医師に誘われて、どえらい目に遭った患者さんの件で私に相談に来る弁護士さんが後を絶ちません。

「だって傷が小さいから心臓の中がよく見えなかったんですよ。途中で傷を大きくしてやり直したけど、心臓を停止していた時間が長すぎて、やっぱりダメでした!」

 傷口を短くすることで、命も短くしてしまうことがあるのです。気を付けましょう!

(南渕明宏/昭和大教授)

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