「M-1グランプリ」V2王者の令和ロマンには「実力・戦略・運」すべてが備わっている(ラリー遠田/お笑い評論家)
日刊ゲンダイDIGITAL / 2025年1月22日 9時26分
令和ロマン(C)日刊ゲンダイ
【2025新春「笑」芸人解体新書】#6
令和ロマン
◇ ◇ ◇
昨年末、20回目を迎えた漫才の大会「M-1グランプリ」でまた新たな記録が生まれた。高比良くるまと松井ケムリの2人から成る前年王者の令和ロマンが再び優勝を果たし、前人未到の連覇を達成したのだ。
1万組前後の出場者が集まるこの大会で、激戦を勝ち抜いて優勝するというのは並大抵のことではない。それを2年続けて達成してしまったというのは、お笑い界の常識をはるかに超えた異常事態である。
圧倒的な実力が求められるのはもちろん、場の空気をつかんで勝ち抜くための戦略や、くじで決められる出番順の運も必要とされる。恐ろしいことに、昨年の令和ロマンはそのすべてを備えていた。
彼らが連覇に挑んだのは、ボケ担当のくるまが1度目の優勝に納得していなかったからだ。彼は大会そのものを盛り上げたかったのに、歯車が噛み合わず、不本意な形で優勝をしてしまったという思いがあった。だからこそ参加を決めたのだ。
一度優勝した人はどういう芸風なのかも世間に知られているし、「勝っているのにまた出場するのか」と他の出場者やお笑いファンからは白い目で見られやすい。
しかし、彼らはあくまでも漫才師であることにこだわり、優勝後も舞台を大切にして、テレビの出演回数を意図的に抑えていた。そういう姿勢を見せたことで業界内でも嫌われることはなかった。
「M-1」の予選が始まると、くるまは自分たちを「害悪」と位置づけて、ヒールキャラに転身した。肩パッドの入ったサンローランのスーツを着てラスボスのような邪悪な雰囲気を漂わせた。ファイナリスト発表会見の席でも彼は「すべての子羊漫才師を檻に帰す。ただそれだけですね」と語った。
決勝当日には、前年に続いてくじで1番手に選ばれるという奇跡が起こり、会場が最高潮に盛り上がる中で舞台に現れた。漫才の冒頭でくるまは「終わらせましょう」と挑発的な言葉を放って場を盛り上げ、そのまま爆笑をさらっていった。
2本目のコント仕立ての漫才でも大きな笑いを取った令和ロマンは、見事に連覇を達成。優勝した瞬間、くるまはヒールキャラを捨てて達成感に満ちた表情をしていた。実力、戦略、運、すべてを備えたV2王者が新たな伝説をつくった。
(ラリー遠田/お笑い評論家)
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