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マスク氏が中国と“曲芸外交”? 2人の狙いは米国と世界をワンマン経営下の株式会社化すること【トランプ2.0始動 暴走どこまで/半沢隆実】

日刊ゲンダイDIGITAL / 2025年1月22日 9時26分

マスク氏が中国と“曲芸外交”? 2人の狙いは米国と世界をワンマン経営下の株式会社化すること【トランプ2.0始動 暴走どこまで/半沢隆実】

“もろ刃の剣”(C)ロイター

【トランプ2.0始動 暴走どこまで】#2

 米大統領ドナルド・トランプが手にしているのは、世界で最も高価な“もろ刃の剣”だ。剣の名前はイーロン・マスク。実業家にして大富豪、そして側近の中で、最もトランプへの影響力が強いと目されている。

 マスクはトランプ政権の目玉となる新設の「政府効率化省」のトップに就任する。同省の目的は規制撤廃や行政の縮小、当初掲げたのは年5000億ドル以上の歳出カットだった。円換算すると約80兆円で、日本の2024年度歳出総額が112兆円であることを考えれば、途方もない額となる。

 ツイッター(現X)買収時に約8割の社員解雇に踏み切った経験があるマスクは、規制撤廃に伴い不要となった官僚の民間転職を支援すると主張。公務員の大量解雇を、議会を通さずに大統領令で断行するというから恐ろしい。

 真っ先に標的にされるのは、トランプの共和党保守派が「社会主義政策だ」と目の敵にする福祉・医療保険サービス部門だろう。

 一方、本来の管轄ではない外交分野で、期待が持てる。何より富とコネクションが強みだ。マスクが率いる電気自動車(EV)メーカー「テスラ」は、最大規模の工場が中国の上海市にある。工場設立は上海市のトップを務めていた現在の中国首相、李強と緊密に協力し実現、2人は個人的な親交がある。

 トランプが貿易や関税問題で中国とがっぷり四つの闘いに臨む裏で、マスクが中国首脳部と落としどころを探るといった曲芸外交も可能だ。利益とXの発言力を武器に、ロシアや欧州主要国とも渡り合える。

 政府の役職と自分のビジネスで利益相反の恐れがあるマスクには、会社経営から一時手を引くべきだとの意見も米国内に強い。しかし、第1期政権時に家族の企業グループが経営するワシントンのホテルに海外の要人を泊まらせて、荒稼ぎしたトランプが気にとめるはずがない。

 テスラの株価はトランプが勝利した後、2週間に40%近く上昇した。政治とビジネスの垣根がかつてなく曖昧な異形の政治形態が第2次トランプ政権だ。

 すべてをワンマン経営下の株式会社化するのが狙いの2人にとって、国民は政府として奉仕する対象ではなく社員。グリーンランドへの恫喝やカナダへの傍若無人な発言からも分かるように、同盟国ですら関連会社のような存在なのだ。

 分断と排除の政治と外交は続く。意に沿わず、利益をもたらさない相手にトランプとマスクは叫ぶだろう。

「おまえはクビだ」 (敬称略=つづく)

▽半沢隆実(はんざわ・たかみ) 1988年共同通信社入社。社会部記者を経てカイロ特派員、パレスチナ紛争、イラク戦争、アフガニスタンなどを取材。ロサンゼルス、ロンドン、ワシントンの各支局長を経て特別編集委員。

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