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創業者に特別功労金31億円…パルグループが「井上英隆イズム」を継承するのは容易ではない【経済ニュースの核心】

日刊ゲンダイDIGITAL / 2025年1月25日 9時26分

創業者に特別功労金31億円…パルグループが「井上英隆イズム」を継承するのは容易ではない【経済ニュースの核心】

パルグループホールディングスのHP

【経済ニュースの核心】

 税抜き300円の商品が中心の雑貨店「3COINS(スリーコインズ)」や女性衣料ブランドを多数展開するパルグループホールディングスは14日、5月28日に取締役を退任する創業者で元会長の井上英隆相談役(89)に特別功労金31億5800万円を支払うと発表した。支払いに伴う費用は2025年2月期に特別損失として計上する。

 井上英隆氏は、1935年奈良県吉野郡下市町生まれ。59年に立命館大学法学部卒業後、父親の洋裁店を継いでテーラーの世界へ。61年にスコッチ洋服店を設立。73年にスコッチ洋服店からカジュアルファッション部門を分離独立させてパルを設立、ジーンズショップの運営に乗り出した。

 さらにジーンズが若い女性に定着するとレディースカジュアルショップにも進出。以来、50年以上にわたり経営を担った。

 その間、製造小売り(SPA)への転換や4週間MD(マーチャンダイジング)をはじめとする改革、3コインズ事業をはじめとする新規事業への挑戦、ナイスクラップなどのM&A、SNSを駆使したマーケティング戦略への転換などを主導した。

 パルグループの24年2月期の連結売上高は1925億円、連結営業利益186億円、連結雇用者数7000人を超える企業グループへ発展させた。趣味の囲碁はアマ2段の腕前だ。

 井上氏は昨年3月、創立50周年を花道に会長を辞し、相談役に退いたが、「引き際は見事だった」(取引先銀行幹部)という。紳士服の営業で頭角を現した松尾勇副社長を後任会長に据える一方、長男で現社長の井上隆太氏の代表権を外したのだ。

 この異例の人事について井上英隆氏は、「今後の経営の責任者は松尾氏であると明確にしたい。井上家は社内から経営を監視する役目を果たす」と説明した。執行は優秀な生え抜き社長に託し、井上家はガバナンスに徹するというわけだ。

■変幻自在だった「井上イズム」

 井上氏の経営は変幻自在だ。「羅針盤」となるのは井上氏が経験則から作り上げたトレンド周期表「パルマップ」だ。ブランドの流行時期を記録していくと、ほぼ12年で一巡することが分かったという。これに基づき、次にどんなブランドが求められるかを予測している。年4回ほど開かれるマップ会議では、井上氏を筆頭に役員やブランド担当者が集まり、どのブランドに注力するか戦略を練る。社員からの提案で開発したブランド数は50以上に及ぶ。

 一方、撤退の決断も速い。「3年やって、だめなら潔く諦める」ことが不文律となっている。主力となる3COINSについても、中国に進出したものの、思い描く業績があげられないとみるや即座に撤退した。以降は海外店舗を持っていない。

 パルグループは25年2月期も大幅増収になる見通しで、26年2月期に売上高3000億円(23年2月期比2倍)の目標を掲げる。ただ低価格の衣類を扱う中国発祥のSHEIN(シーイン)といった事業者も日本に上陸し競争は厳しさを増している。パルグループにとって「井上イズム」の継承は容易なことではない。

(小林佳樹/金融ジャーナリスト)

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