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「重粒子線」がん治療の基礎知識とこれから…保険適用拡大で注目

日刊ゲンダイDIGITAL / 2025年1月25日 9時26分

「重粒子線」がん治療の基礎知識とこれから…保険適用拡大で注目

従来の放射線にはない治療効果が期待できる

「重粒子線」によるがん治療が注目されている。通院回数が少なく、低侵襲性の治療が可能なうえ、従来の放射線にはない治療効果が期待できる。昨年6月からは公的医療保険の適用範囲が拡大された。そこで重粒子線がん治療の基礎とこれからについて江戸川病院(東京・江戸川区)放射線科部長の黒﨑弘正医師に聞いた。

「治療に使われる放射線は大きく2つあります。電荷・重さのない電磁放射線(X線、γ線)と、電荷・重さのある粒子放射線(α線、β線、電子線、陽子線、重粒子線、中性子線)です。重粒子線治療は炭素粒子を光速の約70%まで加速してがんに照射してがん細胞のDNAを破壊する治療法です」

 通常の放射線治療は、体外からリニアックと呼ばれる直線加速装置で電子や高エネルギーのX線を標的となるがん組織に照射する。電磁放射線は体表面でエネルギーが最大となり、体内で徐々に弱くなる。ところが重粒子線を含む粒子線はブラッグピークといって体深部の一定の距離でエネルギーが最大となり、それ以上進まないという物理特性がある。

「そのため重粒子線治療は、腫瘍の位置に合わせたピンポイント治療が可能で、従来の電磁放射線を使った治療に比べて腫瘍の周囲の正常細胞のダメージを減らしつつ、より高い治療効果が期待できるのです」

 実際、X線と重粒子線で前立腺がんを治療して2年おきに10年間観察した研究では、重粒子線の発がん率が低いことがわかっている。

 また、重粒子線は従来の放射線治療が効きづらかったがんにも効果がある。骨軟部腫瘍ではX線治療と比較して生存率の改善がみられ、切除不能な膵臓がん、術後の再発直腸がんでの効果も報告されている。重粒子線治療は治療回数が少なく治療期間が短く済むことも知られている。

 メリットの多い重粒子線によるがん治療だが、開始から30年経つが普及したとは言い難い。実際、2022年の重粒子線治療数は5162件で10年前の1276件から4倍となったとはいえ、がん治療数全体の0.4%に過ぎない。なぜか?

「重粒子線治療が行える施設が現在7カ所しかないこともありますが、一番の理由は長らく公的医療保険の対象外で、患者側が数百万円の費用負担が必要だったからです」

■進む小型化と複数イオン線照射

 2024年以前に公的医療保険の対象だったのは、手術による根治的な治療法が困難な限局性骨軟部腫瘍、長径4センチ以上の肝細胞がん、肝内胆管がん、局所進行性膵がん、手術後再発した局所大腸がん、局所進行性子宮頚部腺がんや一部頭頚部がん、限局性および局所進行性前立腺がんなど。2024年6月以降は、手術による根治的な治療法が困難なⅠ期からⅡA期までの早期肺がん、長径6センチ以上の局所進行子宮頚部扁平上皮がん、婦人科領域の臓器から発生した悪性黒色腫などが加わった。

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