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“大きさと暗さ”を纏う染五郎、圧倒的存在感を放つ白鸚、粗雑さ目立つ團十郎の忠臣蔵(作家・中川右介)

日刊ゲンダイDIGITAL / 2025年1月28日 9時26分

“大きさと暗さ”を纏う染五郎、圧倒的存在感を放つ白鸚、粗雑さ目立つ團十郎の忠臣蔵(作家・中川右介)

歌舞伎座(C)日刊ゲンダイ

 新春浅草歌舞伎のメンバーが一新された。中村橋之助と中村莟玉だけが残り、新たに市川染五郎、中村鷹之資、尾上左近、中村玉太郎、中村鶴松が加わり、卒業組は歌舞伎座と新橋演舞場へ。

 浅草の新メンバーで注目の的が染五郎で、『絵本太功記/尼ヶ崎閑居の場』の武智光秀を橋之助とダブルキャストで演じた。祖父からかなり鍛えられたようで、若さを感じさせない大きさと暗さがある。白鸚が元気なうちに『勧進帳』の弁慶を演じてほしい。一方、『棒しばり』では若さが爆発し、鷹之資とともに、スポーツのように軽やかに、かつコミカルに舞う。

 歌舞伎座は前年までの浅草組が大活躍。昼の部最初の『寿曽我対面』では坂東巳之助が五郎、中村米吉が十郎、坂東新悟が大磯の虎という古典の大役。様式的な芝居だが、人間らしく演じるのでドラマとしてストレートに響いてくる。

 中村隼人は夜の部最後にテレビでも演じている『大富豪同心』で一人二役。巳之助、米吉、新悟はこちらにも出ている。さあこれから面白くなりそうだ、というところで「続く」となったのには驚いた。

 歌舞伎座で昼・夜通して最も印象に残るのは、尾上右近だ。『寿曽我対面』では小林朝比奈をユーモアたっぷりに演じ、後半は完全に主役。夜の部は、中村壱太郎との『二人椀久』。自主公演で2人で踊っているだけあって、「息が合う」とはこのことかと思わせる名コンビぶり。2人の美しさと、瞬発力と敏捷な動きの舞が、時間を忘れさせる。

『大富豪同心』での右近は幇間の銀八で、物語の進行役を、舞台と客席の双方を盛り上げる。右近は、この座組ではこういう軽い役になるのは仕方がないのかもしれないが、シリアスな役でこそ本領を発揮できるはず。

 若手に刺激され、その上の世代の松本幸四郎と尾上松緑も負けてはいられないと、全力投球している。

『陰陽師』では幸四郎の安倍晴明と松本白鸚の蘆屋道満との対決が見もの。白鸚はほとんど動かず、セリフだけだが、圧倒的な存在感を放つ。

 新橋演舞場は市川團十郎が「忠臣蔵」の大星由良之助、高師直、早野勘平、斧定九郎の四役を演じる『双仮名手本三升 裏表忠臣蔵』。

 発想が面白いと思って期待したが、成功とは言い難い。『仮名手本忠臣蔵』の物語を、昼の部と夜の部とで合わせて約4時間(休憩除く)に縮めるだけでも無理があるが、さらに「裏表」とあるように、「裏」の部分を加えているので、原作をかなり省略。よく言えばスピーディーなのだが、原作からなくなった部分ばかりを思い出してしまう。

 芝居というのは本筋とは関係のなさそうな部分が重要なのだと、改めて思う。企画として欲張りすぎたのではないか。役者は皆、健闘。この顔ぶれで、ちゃんとした忠臣蔵を見たかった。

(作家・中川右介)

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