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重度認知症の人から話を聞くと「家族の無視がつらい」と訴えた【認知症の人が考えていること、心の裡】#1

日刊ゲンダイDIGITAL / 2025年2月4日 9時26分

重度認知症の人から話を聞くと「家族の無視がつらい」と訴えた【認知症の人が考えていること、心の裡】#1

本人の声に耳を傾ける

【認知症の人が考えていること、心の裡】#1

 認知症はなりたくない病気の代表だが、家族になってほしくない病気のトップでもある。

 ここではアルツハイマー型認知症に限定するが、認知症と診断されたら、家族は心配して励ましてくれるだろう。だが、症状が進行するとたいてい話しかけることはなくなる。声をかけても返事がなければ「何も分からなくなった。困ったもんだ」と思いながら、家族なのに家族でないかのように無視するようになる。

 やがて徘徊や暴言・暴行といった周辺症状が現れると、家族も頭を抱える。そして、ついマニュアル本を参考にするのだが、思ったほどうまくいかない。介護している方に聞くと「マニュアルは参考になっても、そのままでは役に立たない」そうだ。介護はその人に合わせないと続かないのだという。では、どうすればいいのだろう。

「本人の声に耳を傾ければいいんです」

 出雲市にある重度認知症デイサービス「小山のおうち」を運営する高橋幸男医師にこう言われた。

「重度認知症の人に? 無理だろ」と思ったが、意外にできるものである。簡単にいえば、相手に合わせてゆっくりしゃべればいいのだ。

 認知機能の障害が進むとすぐに言葉が出てこないから時間がかかる。それを見て家族は「ついに分からなくなったのか」と思うが、相手の時間軸に合わせるとちゃんと答えてくれるのである。もっとも単語は少なくなるから、聞く側のサポートも必要だ。

 認知症の人は記憶を保持できないから同じことを何度も繰り返すが、だからといって「さっきも言ったよ」と返すと、本人はバカにされたと思い、そこで会話が途絶えてしまう。

 そんなことを意識しながら10人、20人と重度認知症の人から話を聞いたのだが、彼らは何も分からないどころではなかった。記憶が失われていくことの不安や家族の無視がつらいことなどを訴えたのだ。記憶に障害があるだけで、人間性は私たちとちっとも変わらなかったのである。

「死にたいほどつらい」

「叱られています」

「毎日が不安です」

 彼らからこんな告白を何度聞いただろうか。記憶が消えていく不安におののいているのに、家族は優しい言葉をかけてくれるどころか、私を怒るばっかりでつらい……。

 もちろん家族は怒っているつもりはないのだが、そんなことが続くと本人はどうしていいか分からなくなり、ここは自分の居場所ではないと思うのか、「帰ります」と家を出る人がいる。帰れなければ「徘徊」である。気の強い人は家族を攻撃することもある。

 こうした行動を認知症の症状だと勘違いされる方もいるが、自分の存在を否定されたら誰だって同じではないだろうか。大切なことは、物忘れが激しくても、心の中は私たちと同じなんだということを理解することだ。

「家族関係が変われば本人も変わり、本人が変われば家族の負担は軽くなる」という。それには本人の声に耳を傾けることなのだ。

(奥野修司/ノンフィクション作家)

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