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認知症の人への対応…ポイントは「否定しない」「怒らない」「感謝する」【認知症の人が考えていること、心の裡】#5

日刊ゲンダイDIGITAL / 2025年2月8日 9時26分

認知症の人への対応…ポイントは「否定しない」「怒らない」「感謝する」【認知症の人が考えていること、心の裡】#5

やさしさで安心感に包まれていた(イメージ写真)/(C)日刊ゲンダイ

【認知症の人が考えていること、心の裡】#5

 認知症の人に「今日は何を食べたい?」と尋ねたとする。あらぬ方向を見つめたまま黙っていたら、「もう何を言ってもダメだね」と思うだろう。

 でも認知症の人にすればこうだ。何を食べたいかと聞かれてサンマを想像したが、サンマという言葉が出てこない。どう伝えるか迷っていたら「もういいよ」と言われてしまった、と。

 もしもその時、「しっかりしてよ」とか言われたら、認知症の人の心は傷ついたことだろう。「しっかりしろと言われても、できないことはできない」のだから。

 それだけならいいが、そんな言葉が繰り返されたら、認知症の人は暴力や徘徊で抗議することもある。原因は記憶障害にあるのだから、それを正そうとしても無理なのだ──と気づいた方がいる。そして無意識に、認知症の人にこう対応した。

「否定しない」

「怒らない」

「感謝する」

 この3つを徹底したのが幸次さんだ。認知症になったのは妻の政子さんである。誰かに教えてもらったわけではなく、自然にそんな行動を取っていたという。

 例えば、認知症が進行すると近似の記憶は保持できないから、同じことを何度も聞く。政子さんと一緒に散歩すると、数十回は「どこに行くの?」と聞かされる。でも幸次さんは、聞かれるたびに正直に答えた。

 間違っても「さっきも聞いたよ」と否定しない。「ホントに忘れちゃってるんだからしょうがないよね?」と、お茶をすすりながら言う。

 政子さんは「よく嘘を言う」そうだ。徘徊中に警察官に尋ねられ、「ここはいつも散歩してるからよく知っているの」と言い訳したこともある。嘘というより「作話」だ。私たちでもまずいことをしたと思ったら言い訳をするのと同じで、ある意味で認知症の人の自己防衛でもある。

「その時はどうするんですか」と幸次さんに尋ねると「認知症なんだから仕方がないでしょう」と淡々としていた。

 だからといって、周辺症状がないわけではない。何度か行方不明者届も出したが、それを困った行動とは考えず、誰だって花や木が芽吹けば散歩したいのだからと受け止める。もちろん認知症になった政子さんの内面は不安でいっぱいのはずだが、夫のやさしさで不安が気にならないほど安心感に包まれていた。

「でも、ご主人は大変じゃないですか?」

「年取ったらみんなこんなもんでしょ」と笑う。

 年を取れば誰もが物忘れをする。想像以上に物忘れが進行すれば、家族関係をきっかけに暴言・暴行や徘徊などが起こることもあるが、これは二次的な症状だから病気ではない。「年を取ればみんな物忘れをするのだから仕方がないでしょ?」と幸次さんは言いたいのかもしれない。

「まあ大変だけど、本人は大変さが分からないんだからいいんだ」と淡々と言う。周辺症状は家族関係が引き金になるといわれるが、幸次さん夫妻は、妻が認知症になる前から、きっと理想的な夫婦だったのだろう。(おわり)

(奥野修司/ノンフィクション作家)

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