離婚の噂を直撃のはずが…吉田拓郎の自宅で見た巨人-広島戦【芸能記者稼業 血風録】

日刊ゲンダイDIGITAL / 2020年7月14日 9時26分

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吉田拓郎(C)共同通信社

【芸能記者稼業 血風録】#29

 直撃は取材の基本。これまで数多くの人を直撃してきたが、どんなに場数を踏んでも直前の緊張感は変わらない。最近の直撃は動画撮影する時代になっているが、昔は1人で直撃という心細い現場がよくあった。

「ノーコメント」「事務所を通して」の対応が大半だが、直撃することで表情や口調などを記事に反映できるメリットがある。一方で、直撃によってミスに気付くこともあった。アイドルグループのメンバーが妙齢の年上女性と半同棲現場をキャッチしたが、女性の素性が一向にわからない。隠し撮りで女性の写真を撮っていても、どこの誰かがわからないでは記事にはできない。とりあえず、部屋から出てきた女性を直撃することにした。

「○○君と一緒にお住まいですね」と聞くと「いつもお世話になっています」と頭を下げてきた。すぐさま素性が判明した。近くに住む姉が時々、家事や洗濯を手伝いに家に来ていただけだった。直撃せずに記事にしていれば誤報。ホッと胸をなで下ろした。

 フォーク歌手の神様と呼ばれた吉田拓郎が最初の妻との結婚生活(1972~75年)を送っていたころだった。音楽業界の人から「確かな情報」として別居説がもたらされた。それも「拓郎が自宅を出ていった」という話。別の女性の影がちらついていたわけではないが、別居の延長線上にあるのが離婚。別居だけでも記事の価値があると判断した。

 近所の聞き込みから取材を開始するが、「あまり見かけない」という話しかない。閑静な住宅街を人気歌手がそうそう出歩くこともあるまい。家に残る妻の直撃に踏み切った。目黒にあった豪邸。一軒家は夜のほうが部屋の明かりで在宅か否かわかりやすい。夜の取材は暗黙のうちに9時ごろまでを常識な時間にしていたこともあり、8時すぎに訪ねた。インターホンなどない時代。玄関の呼び鈴を押した。

「だれだ!」と野太い男の声だった。奥さんがいるはずなのに――。「奥さんに別な男?」、そんなことが頭をよぎった。ドア越しに奥さんの在宅を尋ねると、出てきたのは吉田拓郎本人だった。言葉を失った。

「なんだこんな時間に、女房に何の用だ」と語気を強め、「中に入れ!」と、手を掴まれ部屋に入れられた。外に声が響くことを配慮したのだと思うが、まさかの展開に慌てた。入ってすぐの応接間に通され横に座らせられた。

 ビールを飲みながら巨人―広島戦の中継を見ていたのがわかった。広島出身の吉田は熱烈な広島ファン。広島が負けていた。話しかける余地はなく、一緒に野球を見るしかなかった。

 CMの間に「こんな時間になんだ」とお説教が続いた。別居話など切り出せる余裕がない。9時に放送が終了すると、「もう帰れ」と少し穏やかな顔で言われた。帰り際に我慢していたトイレを貸してもらえたのは助かったが、記事はボツに。それから半年後ぐらいに吉田は離婚した。 (つづく)

(二田一比古/ジャーナリスト)

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