【タイ】紙面削除が続いた米紙に見る報道の不自由
Global News Asia / 2015年12月6日 9時0分
2015年12月6日、昨日、国王陛下が88歳の誕生日を迎え、国中が祝賀ムード一色のタイ国内で、今月頭にNYタイムズ紙の記事が、空白のまま発行されるという事態が1日と4日の2回続いた。
同社が委託している印刷所が独自の判断で記事を削除するという事態が起きた。同紙では、タイに報道の自由は無いと遺憾の意を表明した。しかし、これらは想定内のことであったはずだ。
ニューヨークタイムズ紙の紙面が空白のまま発行されたのは、1日付けのトップ紙面と4日付けのオピニオン面だ。1日付けの記事では、軍政の施政と経済の停滞に付いて危惧する内容だった。4日付けの記事では、国王陛下の高齢と後継問題に踏み込んだ、タイ国内では決して見られない内容でもあった。
印刷所による記事削除という事態を受けてNYタイムズ紙からは、タイでの報道の自由を危惧するとともに遺憾を表明が発せされた。今回はは印刷所が自主的に記事の印刷を控えたということだが、不敬罪のあるタイでは当然の判断とも思われる。問題になれば、発行者だけでなく印刷所も同様に罰せられる事になるからだ。
また現在の軍政において、こうした報道機関への締め付けが目立ってもいるが、不敬罪を理由とした報道への締め付けは、今に始まった事ではない。インターネットが普及した現在では、取締りが追いつかない状態だ。そのためタイ軍政は、インターネットゲイトウェイの単一化を進めている。この作業は「中止する」と関係機関が表明したが、その後も隠然と進められている模様で、つい先日も世界的なハッカー集団アノニマスが、抗議のために官公庁のホームページをハッキングし、抗議文を掲載するという事件があったばかりだ。
話は飛ぶが、1992年に起きた血の5月事件と呼ばれる軍による民衆デモへの発砲事件があった。約500人もの一般人が犠牲になったと言われているが、政府による発表は数十名だけで、未だに詳細は解明されていない。その頃には、まだインターネットもなく、テレビもラジオも報道管制されていたため、旅行者などはまったく事情がわからなかった。しかし、ほとんどのタイの人々は、王宮広場周辺で起きた惨劇をほぼリアルタイムで知っていた。それは口コミによるネットワークで、今ではネットに置き換わりつつあるが、まだまだ有効なネットワークとして存在し続けている。
この口コミネットワークの中では、時に王室や軍政に関する情報が流れる。その度に政府が対応しているのだが、昨今はいきなり再教育と称して、軍施設内に拘留することが増えている。国王陛下の高齢と後継者問題が、こうした流言を看過できる余裕も無くなっていることを如実に物語っていると言えるだろう。それが明日なのか、数年後なのか。軍事政権は、あらゆる事態を想定して、その時を迎えるために在任期間を引き延ばしているようだ。
【執筆 : RD】
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