【ミャンマー】「感動できる演奏を」歴史に翻弄された国立交響楽団
Global News Asia / 2016年9月23日 13時0分
2016年9月23日、ミャンマー唯一のオーケストラで、著名指揮者の山本祐ノ介さんが指導にあたるミャンマー国立交響楽団が、12月のコンサートを控え練習を重ねている。山本さんは8月にミャンマーを訪れて直接指導。67人のミャンマー人楽団員と汗を流した。
8月の練習では、コンサートで演奏するベートーベンの「英雄」を特訓。「タタンじゃない、タターンだ。そう、それだ、忘れるな!」山本さんは、楽団員に厳しく指導する一方で、演奏が良くなると大きな声で褒めて場を盛り上げる。楽団員も山本さんについていこうと必死で演奏する。
ミャンマー国立交響楽団は2000年代初頭に、改革派として知られるキンニュン首相(当時)が主導する形で結成された。情報省傘下のテレビ局の組織とされ、国家のプロパガンダを担う役割だったとされる。しかし、2004年にキンニュン首相が失脚し自宅軟禁されると、交響楽団は一転して弾圧の対象になった。組織としては存続したものの、活動停止に追い込まれた。公務員の楽団員は、出勤しても音楽活動ができない状態が続いたという。
2010年にアウンサンスーチー氏(現外相兼国家顧問)が自宅軟禁から解放され、2011年にテインセイン政権が誕生するなど民主化の兆しが見え始めると、楽団は活動再開を許された。だが、バイオリンなどの楽器はキンニュン時代のものしかなく、技術者がいないため調律もままならない。そんな中で、ミャンマー側に乞われて2013年に指導に訪れたのが山本さんだった。
山本さんは、妻でピアニストの小山京子さんらと足しげくミャンマーに通い、楽団を指導。国内に奏者が見つからない楽器もあり、一から指導することもあった。古いピアノがあると聞いては訪れ、直して使った。小山さんは「長く使われておらず、鍵盤が動かなかったり、中からネズミのふんが出てきたりしたこともあった」と振り返る。
長らく人前での演奏の機会のなかった楽団員だが、山本さんが指導すると見る見るうちに技術が向上。昨冬のコンサートは満員となり、繰り返しミャンマーのテレビで放送された。ヤンゴンだけでなくネピドーやマンダレーでも演奏した。
指揮者だった祖父と父を持つ山本さんは「祖父や父のようにオーケストラを一から作るのは、もう日本ではできないことだ。その経験をさせてもらっている」という。「技術は未熟でも、自分たちなりに頑張って、人を感動させることはできる。そんな音楽をつくりたい」と話している。
【執筆 : 北角裕樹】
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