【タイ】海のジプシー・モーケン族 失われつつある海洋民族の文化と伝統
Global News Asia / 2017年4月2日 9時0分
失われゆく独自の文化
2004年12月26日に発生したスマトラ沖大地震による津波では、約12カ国に及ぶ地域で死者・行方不明者は合計で227,898人が犠牲となった。しかし、平均で10mに達する津波が数回襲ったと言われるアンダマン海では、タイ国内だけで6,000人超の犠牲者が出ているにも関わらず、タイ領内にいたモーケンの人々には一人も犠牲者が出ていない。これは文字を持たない彼らに、古くから伝わってきた伝承から海の変化に素早く対応したことによるものだった。そして、当初うまく進んでいなかったタイ国による定住化が、この津波のよって大きく進み、ほとんどの人々が定住を受け入れた。その際には、タイ国籍と共にラマ9世(プミポン国王:当時)の母君より苗字が下賜された。それまで彼らに苗字はなく、名前だけであった。
現在、タイに住むモーケンの人々は沖合の島々に暮らしてはいるものの、かつてのように船の上だけで過ごすことは無くなり、海岸に設えた高床式の質素な住居で暮らしている。子どもたちは、就学年齢に達すると内陸の学校へ通うため寮生活を送っている。海岸の家をベースに沖合で魚や貝などを採取して市場で売ることが主な収入源となっているが、子供の教育費までは賄いきれていない。また雨季ともなれば漁に出ることもままならないため、内陸でアルバイトをする人も増えている。近年では、モーケン語を話せない若者も増えつつあるほか、泳ぎが苦手な子どもも増える傾向にあるという。
伝統文化を次世代につなぐ試み
タイでは、こうした事態に彼らの文化を保存しようという動きも始まっており、王室やNGOが主体となって活動が行われている。Sの一つは、観光客誘致によって彼らの収入源を増やそうという試み。パンガー県クラブリーのアンダマンディスカバリー社が行っている取り組みは、単にツアー客を送り込むでは無く、モーケンの人々自身が考えて伝統的な生活を体験させるというもの。実際に伝統的なモリを投げたり、小型船チャバンの立ち漕ぎを体験出来る。まるで動物園の見学のような他のツアーとは違い、直接モーケンの人から話も聞けるとして、欧米からの観光客に人気上昇中だ。モーケン族が暮らす島を訪れることができるのは、乾季(11月から5月くらい)の間だけ。雨季の間は海も荒れるために観光客が訪れることは禁止されている。
現在の資本主義の流入や国策といった時代の流れには、さすがの海洋民族モーケンの人々も翻弄されている。しかしそれは、彼らだけではない。タイ北部山岳部に暮らすモン族、リス族、カレン族などの少数民族も、現代の利便性あるいは、国籍と引き換えに彼ら自身の伝統として伝えられてきた独特な文化などを失いつつある。独自のアイデンティティーを現代社会の中でどう守っていくか。もはや待った無しの状況になっている。
モーケン族に会いたいという人は、今回の取材にも協力してもらった下記のサイトから現地ツアーを申し込める。
☆アンダマンディスカバリー社:www.andamandiscoveries.com
また、ツナミクラフトが年に2度日本からのツアーを主催している。
モーケン族だけでなく、パンガー県周辺地域の生活体験もできる。
【取材/撮影 : そむちゃい吉田】
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