原野城治著『日本の発言力と対外発信』発刊、日本の対外発信力の脆弱さに警鐘を鳴らした「憂国の書」
Global News Asia / 2018年2月2日 11時0分
2018年1月、ホルス出版から、原野城治(はらのじょうじ)著「日本の発言力と対外発信」(1400円+税)が発刊された。
書籍の内容は、日本外交は今、重要な岐路に立っている。グローバル化が急速に進展し、“世界の警察官”を演じてきた超大国の米国が相対的に力を落とし、中国が急速に軍事力を強めて台頭、お隣の朝鮮半島では北朝鮮が核・ミサイル開発を続けて危険な“瀬戸際外交”を展開。著者はそれを「静かなる有事」と表現し、脆弱なわが国の対外発信力に警鐘を鳴らし、民間を主体とした国際広報の推進を提案しており、傾聴に値する。
著者は時事通信社で政治部記者、パリ特派員、編集局次長などを務めたジャーナリストであるが、その間、秘書部長として経営にもタッチ。通信社を退職したあとは、外務省が国際広報の一翼を担うとして支援していた民間企業「ジャパンエコー社」の代表取締役に就任。その後、公益財団法人「日本財団」の助成を得て、国連公用語6ヵ国語による多言語サイト「ニッポンドットコム」を立ち上げ、長く代表理事を務めた。
対外発信は一国が国際社会の中でプレゼンス(存在)を高めていくために欠かせないツールで、「日本は対外発信力に欠ける」といった指摘は戦前からあった。しかし、その理由について深く分析し、国際広報のあるべき姿を具体的に示した書籍はほとんどないといってよかろう。その意味でも、国際広報の第一線で奮闘してきた著者の分析や提案は貴重だ。また、著者は政府自体に国連公用語6カ国語による常設的な「多言語発信」基盤が構築されていないことを憂慮し、かつては“翻訳大国″と言われた日本の受信能力も急速に低下していることにも警鐘を鳴らしている。いつまでこんな国際広報における受発信体制の無防備を放置し続けるのか。
著者はまた、わが国の対外発信の代名詞のようになっている「クールジャパン」についても言及。漫画や日本食の浸透力を評価しながらも、「官民挙げての『クールジャパン』運動が、イメージ先行で内実に欠けはじめ、発信現場でゴタゴタを助長している」と指摘。その一例として、日本の知的財産でハリウッド映画を独自制作するために設立された官製映画会社が結局、6年経っても映画1本製作できず、赤字を垂れ流し続けている事実を挙げている。あまり知られていないことで、興味深い。
本著のよさは国際広報の歴史や世界の翻訳文化にまで言及し、日本の対外発信力を論じている点で、ジャーナリストの松本重治氏、エール大学教授だった朝河貫一博士、名著『武士道』の著者である新渡戸稲造氏らが海外での日本理解に大いに貢献したことを評価。文藝春秋社の社長だった菊池寛氏が対外発信のために出した英文タブロイド判『Japan To-Day』の宣伝ビラの言葉「宣伝は、それが宣伝であると分かった瞬間にその効果は半減する。従って、宣伝は政府ないし御用機関において行われるべきではなく、民間の自主的活動に待たなければならない」を紹介し、民間を主体とした国際広報の推進を訴えている。貴重な提言だと言わざるを得ない。
【執筆 : 前東洋大学教授、ジャーナリスト・信太謙三】
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