【タイ】北部国境に埋もれた「日本兵とタイ人の友好」を後世に伝えた元警察署長
Global News Asia / 2019年8月15日 7時15分
2019年8月15日の終戦記念日、毎年タイ各地にある慰霊塔でも追悼法要が営まれ、戦火に散った英霊を弔う。戦時中に旧日本軍が実質的に支配したここタイでも北部チェンマイなどで法要が営まれている。かつてそこに参列したタイ人の中に、当時の記憶と記録を後世に残すことに生涯を捧げたタイ人元警察署長がいたことは人々の記憶から忘れられつつある。
チューチャイ・チョムタワット元警察中佐が、1995年(平成7年)から警察署長として赴任したタイ北部ミャンマーと国境を接するメーホンソン県のクンユアムは、悪名高きインパール作戦の出発基地であり、作戦失敗後の白骨街道の帰結地であった。チューチャイ氏は、同地に赴任してすぐに各家に日本兵たちの遺品がたくさん保管されていることに気がついた。
村人たちの話を聞いているうちに興味を掻き立てられた氏は、やがて遺品を集め、村人たちの話を書き留めて膨大な資料を収集した。そして集められた遺品はやがて、日本人有志の賛同も得て旧日本軍博物館として展示された。村人たちから聞き取り集められた話の数々は「第二次世界大戦でのクンユアムの人々の日本の兵隊さんの思い出」として一冊にまとめられた。
そこには、同じタイ国内カンチャナブリでの泰緬鉄道建設にまつわる旧日本軍の所業として、世界中に喧伝され、日本人ですら刷り込まれている戦時中の日本の姿とは全く違うストーリーが書き記されている。
当時タイ北部国境のクンユアム周辺でも、ミャンマーへ通じる道路整備が行われ、タイ人のほか外国人労働者も多く動員されていた。しかし、チューチャイ氏が聞き取った話の中に、カンチャナブリのような悲劇的な話はない。
そこには、日本兵と村人たちとの友情や日本兵とタイ人女性との悲恋や心の触れ合いが多く語られている。しかし、こうした話は残念ながら現在に至るまでほとんどの日本人は知らない。そして、その記録を後世に残すことに生涯をかけた一人のタイ人がいたこともだ。
現在、チューチャイ氏の著書はアマゾンなどでも購入できるので、ぜひご一読いただければと思う。そこに何を思い至るのかは、読者の判断に委ねるのみだが、そこには、紛れもなく日本人が知るべき歴史の真実があることを、少しでも多くの日本人に知ってもらいたいとの願いが込められている。
なお、現在クンユアムに設立されているタイ日友好記念館は、チューチャイ氏が集めた遺品の数々が展示されているものの、氏が伝えたかった趣旨とは遠く離れたものとなっている。このためチューチャイ氏は生前、今一度チェンマイの地に戦争博物館を設立したいと奔走していた。
しかし、その志半ば2016年1月18日に逝去されてしまった。私は幸いにも、生前のチューチャイ氏にインタビューし、直接お話を聞く機会を得ることができた一人として、その思いを伝えるべく本稿を執筆している。そして今後も、折に触れチューチャイ氏が書き残した想いを書き伝えていきたいと思う。
【執筆/写真 : そむちゃい吉田】
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