国土を削りながら、西欧列強の植民地化圧力から独立を維持した狡猾なタイ外交
Global News Asia / 2023年7月15日 7時0分
日本と同じように他国に植民地として占領されたことがないタイ。しかし、それは国土を削りながら西欧列強国から生き延びたにほかならない。そんなタイの近代史を説明した解説図がアユタヤの水上マーケットの敷地内にひっそりと掲示されている。(著者注:2019年時点。現在も残存しているかは未確認なので悪しからず)そこからは、タイがどのようにして独立を維持して来たのかを垣間見ることができる。
世界遺産でもあり、世界中から観光客が訪れるタイの古都アユタヤ。かつて国名がシャムと呼ばれていた頃には国の首都として王族が居住し、その昔には、山田長政を首領とした日本人傭兵たちが日本人村に定住していた。その後、ビルマ(現ミャンマー)の侵攻により街全体が焼き払われたものの、後にトンブリー王朝を開くタークシン将軍による反撃により、アユタヤは奪還された。
トンブリー王朝がタークシン王一代のみで、現代に続くチャクリー王朝となったタイは、当時の植民地政策により周辺各国に侵攻してきたイギリス(ミャンマー、マレーシアなど)とフランス(ベトナム、カンボジア、ラオス)に挟まれ、時折軍事衝突を交えながら激動の時代を植民地として占領されずに生き延びた。
この間にタイは、占領から逃れるために国土の一部を何度も割譲させられた。それは以下の一覧のようにチャクリー王朝第一代ラーマ1世の時代から、前国王ラーマ9世の治世まで14回にも渡った。近年でも最後の割譲となったカオプラウィハーンにあるプレアビヒア寺院の帰属を巡って、2008年と2011年に衝突が起きている。
1786年(仏暦2329年)ラーマ1世により、マーク島をマレーシア(当時宗主国イギリス)へ割譲
1793年(仏暦2336年)ラーマ1世により、マリッド、タワーイ、タナーウシリー(プラチュアブキーリカン県の西側)をビルマ(当時宗主国イギリス)へ割譲
1810年(仏暦2353年)ラーマ2世により、バンターイマートをカンボジア(当時の宗主国フランス)へ割譲
1825年(仏暦2368年)ラーマ3世により、セーンウィー、ムアンポン、チェントゥンをビルマ(当時宗主国イギリス)へ割譲
1826年(仏暦2369年)ラーマ3世によりラタペーラックをマレーシア(当時宗主国イギリス)へ割譲。
1850年(仏暦2393年)ラーマ4世により、シプソーンパンナー(西双版納)を中国へ割譲。
1867年(仏暦2410年)ラーマ4世により、当時まで宗主国として統治していたカンボジアと6つの島々をカンボジア(当時の宗主国フランス)へ割譲。
1888年(仏暦2431年)ラーマ5世により、シプソーンチュタイをラオス(当時の宗主国フランス)へ割譲。
1892年(仏暦2435年)ラーマ5世により、サルウィン川西側13地区をビルマ(当時宗主国イギリス)へ割譲。
1893年(仏暦2436年)ラーマ5世により、当時まで宗主国として統治していたラオス(サンヤブリーを除く)を当時の宗主国フランスへ割譲。
1903年(仏暦2446年)ラーマ5世により、サンヤブリーと南部メコン川西側地域をラオス(当時の宗主国フランス)へ割譲。
1906年(仏暦2449年)ラーマ5世により、シソポン、シアムラート、プラタボンをカンボジア(当時の宗主国フランス)へ割譲。
1908年(仏暦2451年)ラーマ5世により、サイブリーなど国境3地域をマレーシア(当時宗主国イギリス)へ割譲。
1962年(仏暦2505年):ラーマ9世により、カオプラウィハーンをカンボジアへ割譲。
海洋国家日本ではあまりピンと来ない国境だが、こうして少しずつ削り取られるなどということは、中々想像もできない。しかし今、北方領土や竹島だけでなく、尖閣諸島などの領有権問題を考える時、タイの前例は何か参考にもなるのではないだろうか。
【執筆 : そむちゃい吉田】
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