【大人の教養】「ラッコが増える」と「昆布も増える」…そのワケは?
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年4月26日 12時0分
![【大人の教養】「ラッコが増える」と「昆布も増える」…そのワケは?](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/goldonline/goldonline_58744_0-small.jpg)
(※写真はイメージです/PIXTA)
ラッコが増えると、コンブも増える。ラッコが減少すれば、コンブも減少する。一見不思議にも思えるこの連動は、高校生物の知識で説明することができます。伊藤和修氏の著書『大人の教養 面白いほどわかる生物』(KADOKAWA)より一部を抜粋し、異種間の関係を見ていきましょう。現在の高校生物の教科書に準拠した内容ですので、教養にしては少々詳しすぎる部分もあります。受験対策をするわけではないので、ややこしいと感じる部分は、サラっと読み飛ばしてしまってOKです。
<前回記事> 【大人の教養】エビとウニ、動物界で「ヒトと近い」のはどっち?
生態的地位(ニッチ)と共存
~生物にとって「種間競争」は“できれば避けたいモノ”
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生態的地位と共存生物群集において、ある生物が必要とする食物や生活空間、時間といった資源の種類や資源の利用のしかたをまとめて生態的地位(ニッチ)といいます。難しい用語ですので、少しずつイメージをつかんでいきましょう。
種Aと種Bの生態的地位が極めて似ている場合、どうなるでしょう? 同じ場所で、同じ時間に同じような食物を食べて…
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そうそう! 生態的地位が非常に近い種が同じ場所にいると種間競争(しゅかんきょうそう)が起こってしまう可能性が高いんです! 強烈な種間競争が起こると、一方の種がその空間から排除されてしまう場合があります。これを競争的排除(きょうそうてきはいじょ)といいます。
冒頭の会話にもあるとおり、種間競争に勝ったとしても、競争にエネルギーや時間を費やしていますから、種にとっては損失になってしまうんですよ。だったら、種間競争をなるべく緩和して…、できれば回避したいと思いませんか?
そこで、生態的地位を本来のものからズラすことで種間競争を緩和する場合が多くあります。たとえば、食べる餌を変えてみたり、生活空間をちょっと変えてみたりするんです。
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さらに生態的地位の近い種と共存する場合に、単に生活空間などを変えたりするだけでなく、形質の変化をともなう場合があります。この現象を形質置換(けいしつちかん)といいます。
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被食者-捕食者相互関係
~「食われる側」が減ると、「食う側」も減る
次は、被食者-捕食者相互関係(ひしょくしゃ-ほしょくしゃそうごかんけい)、いわゆる「食う-食われる」の関係について。もちろん、食われる側が被食者で、食う側が捕食者ね。被食者と捕食者の個体数の変動のようすを示したグラフ(図表1)を見てみましょう! 何か気づくことはないですか?
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そのとおり! もうちょっと正確にいうと、捕食者の個体数変動のほうが少し遅れているよね。被食者が増えると「餌が増えてうれしい!」と捕食者が増える。被食者が減ると「餌不足だ…」と捕食者が減る、という流れです。
共生と寄生
~共生には2種類ある。「win-win」の関係と「利益アリ×特に利害ナシ」の関係
自然界には種間関係において双方に利益がある場合もあるんです。この関係を相利共生(そうりきょうせい)といいます。
わかりやすい例を挙げると…、虫媒花(ちゅうばいか)をつける被子植物と花粉を運ぶ昆虫の関係なんかも相利共生です!
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ほかに知っておきたい例としては…、アリとアブラムシ! アブラムシの天敵はテントウムシなんです。アリはテントウムシからアブラムシを守ってくれるんですよ。そのかわりにアブラムシはアリに対して栄養分を含む分泌物を与えます。
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一方のみが利益を受けて、他方は実質的な利益も不利益も受けない関係を片利共生(へんりきょうせい)といいます。カクレウオとナマコの関係が有名ですね。カクレウオはナマコの体内に身を隠すんです。ナマコには…、特に利益も不利益もありません。
ほかにも、一方の種が他方の種から栄養分などを一方的に奪って不利益を与えるような関係である寄生(きせい)などもあります。利益を得る側が寄生者、不利益を被る側が宿主(しゅくしゅ)です。宿主の体表に寄生するダニや、体内に寄生するカイチュウ、宿主に卵を産みつける寄生バチなどが代表的です。虫が苦手な方にはレベルが高い見た目ですので…、自己責任で、インターネットで画像検索してみるとよいでしょう!
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間接効果
~「ラッコが増えると、コンブが増える」。ほかの種を介して影響を及ぼすケース
種間関係は直接的なものばかりではなく、ほかの種を介して影響を及ぼす場合があり、この影響を間接効果(かんせつこうか)といいます。1つ例を見てみましょう。
ウニがコンブを食べて、ラッコがウニを食べるんです。ラッコとコンブは直接的な関係はありませんね。しかし、ラッコが増えたとすると…、ウニが減少し、ウニによるコンブの摂食が減るので、コンブは増えます! ラッコは間接的にコンブの食害を減少させるような作用を及ぼしていることになります(図表2)。
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食物連鎖
~「食う-食われる」による繋がり
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生物どうしの被食者-捕食者相互関係による繫がりを食物連鎖(しょくもつれんさ)といいます。実際には、生物群集を構成する生物は複数種の生物を食べるし、複数種の生物に食べられるし…と、食う-食われるの関係は直線的ではなく、図表3のように網目状になっているんです。これを食物網(しょくもつもう)といいます。
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生物群集において、共通の資源を利用する複数の生物種が競争的排除を起こさずに共存している場合があります。
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そうなんです! 他種が共存するしくみとして「捕食者の存在」や「かく乱」などがあります。この2つについて説明していきますよ。
捕食者の存在
~捕食者がいることで共存できるようになることも
海岸の岩場にすむイガイとフジツボはどちらも生態的地位が近く、捕食者がいない場合は、競争によりフジツボが排除されます。しかし、捕食者のヒトデがいると、イガイの個体群密度が高まらないので、フジツボが排除されず、なんと両者が共存できるのです!
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このように、上位捕食者の存在によって、種多様性(しゅたようせい)を大きく保たれることがあるんですよ。そして、岩場の食物網におけるヒトデのように、生物群集の種多様性を保ち、生態系のバランスを保つのに重要な役割を果たす上位捕食者をキーストーン種(しゅ)といいます。
キーストーン種を人為的に取り除くと、生態系のバランスが崩れてしまい、種多様性が小さくなってしまうんですよ。
かく乱
~生物群集の状態を乱す現象。種多様性の大きさに影響する
台風、河川の氾濫(はんらん)のように生物群集の状態を乱す現象をかく乱といいます。大きなかく乱が頻繁に起こる場合、かく乱に強い一部の種しか生存できず、種多様性が小さくなってしまいます。一方、かく乱が非常に少ない場合には、種間競争が激化して競争的排除が起こるので、種間競争に強い種ばかりになり、種多様性が小さくなってしまうのです。
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中規模のかく乱が生物群集の種多様性を大きくするという考えを、中規模かく乱説といいます。
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伊藤 和修(いとう・ひとむ) 駿台予備学校 生物科専任講師 京都大学農学部卒(専門は植物遺伝学)。派手な服を身にまとい、ノリノリで行われる授業では、“「わかりやすさ」と「おもしろさ」の両立”をモットーに、体系的な板書と丁寧な説明に加え、小道具(ときに大道具)を用いて視覚的なインパクトも追求。 著書は『大学入学共通テスト 生物の点数が面白いほどとれる本』『大学入学共通テスト 生物基礎の点数が面白いほどとれる本』『大学入試 ゼロからはじめる 生物計算問題の解き方』『直前30日で9割とれる 伊藤和修の 共通テスト生物基礎』(以上、KADOKAWA)、『生物の良問問題集[生物基礎・生物] 新装版』(旺文社)など多数。
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