【20世紀末に登場した2大ハイブリッド車】〈トヨタ・プリウス〉はハリウッドスターに愛され、〈ホンダ・インサイト〉は西海岸のサーファーから絶大な支持を得たワケ
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年5月7日 14時0分
90年代後半、戦後積み重ねてきた日本的な車づくりの総決算として、ハイブリット車が登場します。それは、「省燃費車は遅い」と言われていたなかで、ガソリン車と同じ速度が出すことができ、かつガソリン消費を少なくすることを実現した、画期的な技術でした。自動車評論家である鈴木均氏の著書『自動車の世界史』(中央公論新社)より、詳しく見ていきましょう。
ハイブリッド車の登場
90年代の再編劇を経て消え去った伝統があった一方で、来たる21世紀を感じさせる、新しい車たちが登場した。ハイブリッド車(HV)である。
エンジンの出力をモーターでアシストする発想は、日本で初めて生まれたものではない。イギリスのアーノルド・ベンツは世界で初めてエンジンに電気式スターターを搭載した際(1897年)、これを登坂時のアシストにも使った。このようなアシストを効率的かつ確実にオペレートする部品群の組み合わせこそが、トヨタ・プリウスやホンダ・インサイトが提案した、日本独自の発見である。
1997年、初代プリウスが鉄腕アトムと共にCMに登場し、「21世紀に間に合いました」とうたった。プリウスは直4エンジンが58馬力を発生し、41馬力のモーターと状況に合わせて交互に駆動力を伝え、当時の同じ排気量のエンジン車の2倍近い好燃費を記録した。バッテリーは現在のようなリチウムイオンではなくニッケル水素で、車両価格215万円という、当時のカローラより少々高額な設定だが、それでも出血大サービスの値段だった。普及を優先したからだ。
当初は売れ行きが伸び悩んだプリウスだったが、黒柳徹子が購入して話題を呼ぶなど徐々に注目が集まった。海の向こうではハリウッドスター、特にレオナルド・ディカプリオが2005年のアカデミー賞授賞式にプリウスで乗りつけ、注目を集めた。
ディカプリオはその後もEVのテスラ・モデルS、PHEV(プラグイン・ハイブリッド車)のフィスカー・カルマの初号機、ハイブリッドのボルボXC60やポルシェ・カイエンS、クライスラー初のPHEV、パシフィカなどを乗り継いでいる。歴代プリウス愛用者としては、他にキャメロン・ディアス、サラ・ジェシカ・パーカー、ナタリー・ポートマン、オーランド・ブルームなどが知られている。なおその後、黒柳徹子はいち早く水素で走るFCV(燃料電池車)の初代MIRAIのオーナーとなったことでも有名になった。
アメリカ・西海岸のサーファーに支持された、ホンダの〈インサイト〉
対して99年に登場したホンダ・インサイトは、地味な船出となった。テレビCMや広告に有名人は登場しなかったが、プリウスより先にアメリカで売られ、西海岸のサーファーたちに支持者が増えた。それもそのはず、車体はスーパーカーNSX譲りの軽量なアルミ製、スポーツカーのごとく2人乗り、そして1リッターのエンジンを小さなモーターがアシストする、プリウスよりも大幅に簡略なシステムだったのである。
プリウスではエンジンもモーターも主役だが、インサイトはあくまでもエンジンが主役だった。車体とシステムの軽さと、空力を最優先した近未来的な外観で燃費を稼いだ。スポーツカー並みの凝った作りと、後席部分を全て荷室とした割り切りが、サーファーたちに「新しい」とウケた。そしてアメリカEPAから、ガソリン・エンジン車燃費ランキング1位に認定された。
プリウスとインサイトの登場は、来たる21世紀がどのような時代になるのか、先を照らす役割を果たした。省燃費車は非力ゆえに遅い、という常識をくつがえし、従来のガソリン車と同じ速さのまま、いかにガソリン消費を少なくするか、という新しい競争が生まれた。BBC『トップ・ギア』誌はプリウスを「奇妙なくらい省燃費」と高く評価している。同誌は大衆向けの日本車・ドイツ車、特にトヨタとフォルクスワーゲンに(執拗に)厳しいが、プリウスの性能を認めざるをえなかった。
国内的には、どうだったのだろうか。80年代の日本はバブル景気に沸き、自動車業界は89年から90年にかけ、量的にピークを迎えた。バブルは戦後日本の高度成長の総決算であり、ハイブリッド車は戦後積み重ねてきた日本的な車づくりの、総決算だった。一般家庭の手が届く値段、故障が少なく省燃費、そして初心者でも安心して運転できる敷居の低さを極限まで高めた。
20世紀最後の10年は、戦後の高度成長が一段落し、これからの日本が何を軸に生き残りを図るのか、その解が芽生えた時期だった。21世紀に入ってまもなく、三菱と日産は量産電動車(EV)を発売するのである。
鈴木 均 合同会社未来モビリT研究 代表
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