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この先、不安しかない…〈退職金3,000万円〉〈貯金1,500万円〉の64歳・元エリートサラリーマンに忍び寄る「老後破綻」と「年金問題」【CFPの助言】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年3月21日 11時15分

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(※写真はイメージです/PIXTA)

65歳から支給される「年金」。受給のタイミングについては早めたり、遅らせたりすることができ、それにより受給額にも違いが出てくるため、受給者それぞれの状況に応じた判断が必要となります。FP事務所「T&Rコンサルティング」の代表であり、CFP®保持者の新美昌也氏が事例を交えて解説します。

65歳で“完全リタイア”を目論むも…

田中(仮名)さんは、現在64歳。上場企業の大手メーカーで営業部長職を務め、60歳で定年退職しましたが、勤務先の再雇用制度を利用し、現在も働いています。定年退職時、田中さんは老後の展望として、65歳になるタイミングで完全リタイアし、年金をもらい、妻と旅行をしたり、趣味の庭いじりをしたりしつつ、のんびり気ままなリタイア生活を送りたいと考えていました。

定年退職をした時点で、田中さんの年収は1,300万円ほどあり、退職金も3,000万円もらえたため、経済的には余裕があり、このまま順調に行けば、老後生活も安泰かのように思えました。

しかし、現実はそう甘くはありません。3歳年下の妻と結婚したのが30歳半ばと、晩婚だった田中さんは、2人の子どもが独立したのが、60歳を過ぎてから。しかも2人とも中学受験をし、中高一貫教育の私立校を卒業後、上の子どもは系列の大学へ、下の子どもは本人の強い希望により、海外の大学に進学。教育費の支出が多く、貯蓄を増やすことが難しい時期が続きます。

退職時に、住宅ローンの残債の一括返済に使ったため、ローンの心配はなくなりましたが、現在の貯金は1,500万円と、かなり目減りしてしまいました。再就職後の年収は360万円程度。妻と2人で暮らすには困りませんが、この先のリタイア生活を考えると、不安で堪りません。

そんなある日、テレビを見ていた田中さんは、情報番組で「年金の受給開始の時期を遅らせれば、受け取る年金額を増やせる」ということを知りました。「そうか!」と、田中さんはひらめきます。

「元気なうちは70歳でも80歳でも、できるだけ長く働き、年金額を増やすほうがいいのかもしれない」。

人生100年時代、年金と貯蓄だけで暮らしていくためには、どのくらい年金受給の時期を遅らせるのが正解なのか答えを知りたいと考え、FPである筆者に相談することにしました。

「繰下げ受給」で年金はどのくらい増額するのか

ここで、年金の受け取りのタイミングを遅らせる「繰下げ受給」について見ていきましょう。

老齢基礎年金と老齢厚生年金は、いずれも年金の受給の開始年齢は原則65歳ですが、65歳よりも早く、あるいは遅く受け取ることもできます。

遅く受け取る場合、66歳以後75歳までの間で繰り下げて年金を受け取ることができます。1年から10年の範囲で1ヵ月単位で繰下げができます。

繰り下げた期間によって年金額が増額され、その増額率は一生変わりません。なお、老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰り下げすることができます。

繰下げ増額率は、1ヵ月につき0.7%、最大の10年繰下げで84%です。たとえば、2年5ヵ月繰り下げると20.3%(=0.7%×29ヵ月)の増額になります。2年半弱の繰下げで元の年金額は2割増えるので投資をするより安全に資産を増やすことができます。

〈平均余命〉から見る「年金受給」のタイミングとは

田中さんは現在64歳ですが、繰下げを決断する年齢は65歳からです。65歳の人の「平均余命」から見て、何歳に繰下げ受給の請求をすると損をしないのか、計算してみましょう。

「令和4年簡易生命表」をみると、65歳男性の平均余命は19.44年、女性は24.30年です。つまり、65歳男性は平均84.44歳まで、女性は89.30歳まで生きるということです。

この平均余命をもとに田中さん夫婦が平均余命まで生きた場合の年金の受取り総額を計算してみましょう。ちなみに、夫が受け取る年金は老齢基礎年金が6万8,000円、老齢厚生年金が9万4,000円、妻が受け取る年金は老齢基礎年金が6万8,000円です。夫婦合計で月額23万円です。

・夫が85歳までに受け取る年金総額

【65歳から受給開始】

16万2,000円×12ヵ月×20年間=約3,890万円

【70歳から受給開始】

16万2,000円×1.42×12ヵ月×15年間=約4,141万円

【71歳から受給開始】

16万2,000円×1.504×12ヵ月×14年間=約4,093万円

【75歳から受給開始】

16万2,000円×1.84×12ヵ月×10年間=約3,580万円

妻の年金額も計算すると、夫同様、70歳時(目安)に繰下げると年金額が最も多くなることがわかります。つまり、田中家の年金戦略は、平均余命で考えると老齢厚生年金も老齢基礎年金も70歳まで繰り下げることが基本になります。

田中さんのケースでは、70歳に繰下げ受給の開始を行うと約12年(100÷8.4)後の82歳で65歳から年金を受け取り始めたときの総額に追いつき、その後は平均余命の85歳まで総額を上回ることになります。

ちなみに、この約12年を年金受け取り開始の年齢に足した年齢になったときに、繰下げせず65歳から年金を受け取った場合の総額に追いつきます。つまり、年金受給の損益分岐点を表します。たとえば、68歳に繰下げたのなら、損益分岐点は80歳(目安)になります。

夫婦に年齢差がある場合、「繰下げ受給」だと損をする!?

この年金戦略の注意点として、繰下げ待機期間(年金を受け取っていない期間)中は、加給年金額を受け取ることができない点です。

加給年金とは、厚生年金保険の被保険者期間が20年以上ある人が、65歳到達時点でその人に生計を維持されている配偶者または子がいるときに加算される手当のようなものです。

田中家は夫が65歳時に妻は62歳(専業主婦)です。夫が65歳から老齢厚生年金を受給する場合、加給年金39万7,500円(令和5年度)を3年間、合計で119万2,500円受け取ることができます。しかし、年金の繰下げをすると、この加給年金を失うことになります。

田中夫妻のように年齢差が3歳の場合、繰下げしたほうがお得か、繰下げせず加給年金を受け取ったほうがお得か検証してみました。

夫が老齢厚生年金を70歳に繰り下げる場合の受取額から繰り下げない場合の受取額を控除すると、繰り下げたことの増額分が求められます。計算すると増加分は年間47万3,760円となります。 ※月額9万4000円×12か月×(1.42−1)

3年間の加給年金119万2,500円を増加分47万3,760円で割ると、約2.5年後に加給年金の額に追いつくことがわかります。

この約2.5年と損益分岐点を表す約12年を合わせた約14.5年後の84.5歳程度まで夫が生きていれば、加給年金を受け取らず老齢年金を70歳まで繰り下げたほうがお得と言えそうです。平均余命を超えて長生きする可能性があるからです。

なお、夫婦の年齢差がおおむね5歳以上の場合、加給年金を受け取ったほうがお得になる可能性が高いといえます。このケースでは、老齢基礎年金のみ繰下げ、老齢厚生年金を65歳から受給して、加給年金を確保するという戦略がお得になります。

年金制度をいかに活用するかで「老後」の幸福度が変わる

繰下げ受給を検討する場合、受給の開始年齢を75歳にしたほうが、年金額が約2倍になるのでお得のように思えます。しかし、平均余命を考えた場合、受給の開始年齢70歳が夫婦で受け取る年金総額がもっとも多くなります。

年金に対する不安が解消し、田中さんも満足そうです。幸い、勤務先の再雇用制度が70歳まで契約可能だったので、完全リタイアの時期を70歳にずらし、年金の受給も70歳に繰り下げることに決めました。

田中さんのケースでは、収入面だけで考えると、65歳で引退しても老後生活はやっていけたはずでした。しかし、住宅ローンの一括返済や教育費といった、避けられない「大きな出費」により、老後破綻が現実味を帯びる事態となってしまいました。田中さんの場合は運良く、70歳まで働ける環境が確保できましたが、仕事が見つからない、病気等で働けないといった可能性もあります。

そのような場合、繰下げ待機期間中に65歳からもらえるはずだった年金を一括請求できることを知っておきましょう。ただし、時効により遡って請求できるのは5年間ですので、注意が必要です。

本来、将来設計と合わせたマネープランを早い段階から練っておきたいものですが、何が起こるかわからないのが人生。長く働き続けること、そして年金の制度をうまく活用することで乗り越えていきたいものです。

[参考資料] 日本年金機構 :年金の繰下げ受給 厚生労働省 :令和4年簡易生命表の概況 厚生労働省 :令和6年度の年金額改定について 日本年金機構 :加給年金額と振替加算  

新美 昌也 T&Rコンサルティング代表 CFP

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