年金月5万円の80歳・激痩せした母が緊急入院…疲弊困憊のなか60歳・引きこもり定年夫からの「僕のご飯は?」→53歳・限界妻が取った〈最後の手段〉【FPが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年4月4日 11時45分
![写真](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/goldonline/goldonline_59087_0-small.jpg)
(※写真はイメージです/PIXTA)
もともと休日に外出する習慣のない人たちは、老後、家に閉じこもるというケースは少なくないでしょう。仕事などの社会との接点を失ったあとも、人生はまだまだ長く続いていきます。本記事では、Aさんの事例とともにセカンドライフの生き方の選択肢について、FP1級の川淵ゆかり氏が解説します。
引きこもりの定年夫と暮らすパート勤めの妻
Aさんはコンビニで働く53歳の元気な女性です。60歳の定年まで勤め上げたご主人と住宅ローンを完済したマンションに二人で暮らしています。息子が一人いますが、就職後は一人暮らしを希望して出て行ってしまいました。
夫はこれまでのストレスから、定年のタイミングで働くことをやめてしまい、もともと息子が使っていた部屋に引きこもるようになります。最近では夫婦の会話もほとんどなくなってしまいました。「散歩にでも出たら?」と声をかけても返事もありません。
Aさん自身のパート収入はそれほど大きなものではありませんが、息子も独立したうえ、夫の退職金などの貯蓄もあるため、いまのところは生活に困ることはありません。ですが、一番心配なのは夫の精神状態です。それでも食事はちゃんと摂っているので、病院に連れていくべきかどうか悩ましいところです。
ストレスが限界に近づく妻
明るいAさんですが、仕事から帰ってきても住まいの雰囲気は暗く、疲れた体で食事の用意をして、どんよりとした目の夫と向かい合って食事をする毎日です。そのうち、仕事から帰宅して玄関のドアを開けるたびに、ため息をつくようになってきました。
「このままだと私もダメになるわ」
さて、Aさんの実家は海の近くにあり、80歳の母親が一人で住んでいます。Aさんには都内のマンションに住む兄が一人いますが、父親が亡くなってからどんなに兄夫婦が母親に同居を持ちかけても「マンションには住みたくない」の一点張りで一人暮らしを続けていました。
老人ホームに入れることも兄妹で考えましたが、「一人で生活できるのに、なぜ老人ホームに入らないといけないの?」と頑として言うことを聞きません。母親は年を重ねるごとにますます頑固になっていくようです。
ときどき、Aさんと義姉が交代で様子を見に行っているのですが、そんな母親も会うたびに痩せているような気がします。
増える高齢者の一人暮らし
65歳以上の者のいる世帯についてみると、令和元年現在、世帯数は2,558万4,000世帯と、右肩上がりで増えており、全世帯(5,178万5,000世帯)の約半数の49.4%を占めています。
また、昭和55年では世帯構造のなかで三世代世帯の割合が最も多かったことに対し、令和元年では夫婦のみの世帯に次いで単独世帯が多くなっています。
![](https://ggo.ismcdn.jp/mwimgs/d/b/800m/img_dbc59346f17d046170bbf58025ece1a8256226.jpg)
実家に帰ると…母の姿に衝撃
夫との関係に疲れ切ったAさんは、自分自身の気分転換も兼ねて母親の様子を見に3日ほど実家に帰る決心をします。
Aさんの実家は海に近く、懐かしい潮の香りをかぐだけで心が洗われそうです。
家に帰る道中、ストレスの半分もすでに解消したようなAさんでしたが、実家に着くと驚くべき光景を目にします。この家は古く、昼間も電気を付けないと暗くて仕方がないのですが、電気もつけず暗い部屋の中で母親は布団を敷いて寝ているのです。
Aさんは「お母さん、どうしたの!?」と駆け寄りますが、さらにやせ細ったような母親は「おなかが痛い」と言って動こうとしません。すぐにタクシーを呼んで病院に連れて行くと、食が細いことで便秘が続いていたようで、そのために腹痛を起こしていたようでした。
落ち着いた母親に話を聞くと、「食欲がない」「電気代も高くなったから電気もテレビも付けないようにしていた」と言います。
Aさんの父親は自営業だったため遺族年金はなく、母親の年金額も月に5万円程度です。節約のために一人で暗い家の中で過ごしていたかと思うと、母親が不憫になってしまいました。
母親は1週間ほど入院することになり、Aさんはそばに付いていることにしました。夫に電話をすると「僕のご飯はどうするの?」と、信じられない言葉が返ってきました。めったに怒らないAさんでしたが、これには激怒。「それなら、あなたもこっちに来なさいよ!」
笑顔が戻った夫と母親
Aさん夫婦はAさんの実家でしばらく過ごすことになりました。日中は病院で母親の面倒を看ているAさんに対し、Aさんの夫は実家でお留守番の毎日です。ですが、マンションの息子の部屋と違い、漫画もDVDもゲームもない暗いこの家はさすがに一人で居続けるのは苦痛でした。
そのうちAさんの夫は海まで散歩に出るようになります。ある日、夕食を二人で食べていると、「今日は釣りをしている人と話をしたんだ」と珍しく話しかけてきました。
「僕も子どものころはよく釣りをしたんだ。また始めようかな。釣りの道具を買ってもいい?」と聞いてきました。Aさんは、「もうすぐマンションに帰るじゃないの」と言いかけましたが、これで夫が外に出るようになるなら、と「そうね。明日、買いに行けばいいんじゃない?」と言いました。
夫は下を向きながら少しだけ微笑み、Aさんは久しぶりに夫の笑顔を見ることができました。
その後Aさんは、周りに建物が多いマンションよりも実家に越してきたほうが、夫にとっても母親にとってもいいのではないか、と考えるようになります。夫は喜んで賛成し、今回の入院ですっかり心細くなった母親も快諾します。マンションを売却し、そのお金で家をリフォームして3人で住むことにしました。
母親を心配していた兄夫婦もとても喜んでくれました。働くことが好きなAさんは、同じ系列のコンビニが実家の近くにあったため、そちらに移って仕事を続けることにしました。
家のリフォームが終わり、引っ越ししたあとも夫はあいかわらず働きには出ませんが、Aさんが働いているあいだは母親の面倒をみてくれますし、釣ってきた魚を台所で一緒に立って料理してくれるようにもなりました。母親も食欲が出るようになり、いまは3人で笑いながら食卓を囲む毎日です。
「3人の暮らしも落ち着いてきたから、今度は家庭菜園にもチャレンジしようと思うの」と、Aさんは笑顔で言いました。
<図表>
川淵 ゆかり
川淵ゆかり事務所
代表
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