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マイナス金利解除で「家を失う夫婦」続出か…世帯年収1,320万円の30代パワーカップル、念願のマイホーム購入→3年後に絶体絶命「売るしかない」【FPが解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年3月29日 11時45分

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(※画像はイメージです/PIXTA)

2024年3月19日、日本銀行は金融政策を決める会合で、マイナス金利政策を解除する見直しを決定しました。これにより、多くの消費者にとって関心の的となったのが、住宅ローンの金利です。本記事ではBさん夫婦の事例とともに、金利上昇のリスクとペアローンのリスクの密接な関係について、長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。

日銀、マイナス金利解除を決定

2024年3月、日本銀行がマイナス金利の解除を発表しました。このニュースを特に気にしているのは、現在住宅ローンを返済中の人や、これから住宅ローンを借りようとしている人かと思います。

多くの人の興味は「住宅ローンの変動金利は今後上昇するのか?」ということに尽きます。返済負担率ギリギリで融資を受けている人は、毎月の返済額が数万円増えるだけで生活への影響が甚大でしょう。

たとえば毎月の返済額が3万円増えたとすると、25年間で増加する支出は720万円。平均的な普通自動車の価格の2台分です。「老後の2,000万円問題」が取り沙汰された時期がありましたが、2,000万円を貯められていたはずの人でも720万円が利息で飛ぶわけですから、住宅ローンの金利上昇は人生設計自体に大きな影響をおよぼすことがわかります。

変動金利は本当に上昇する?

実際のところ、変動金利は上昇するのでしょうか。

そもそも住宅ローンの変動金利は各銀行が定める「短期プライムレート」を参考にして決められています。短期プライムレートは、日本銀行の政策を伝える役割を持つ「無担保コールレート(オーバーナイト物)」を目安のひとつにしていますが、銀行が独自に定めるものであり、日本銀行の政策がダイレクトに住宅ローン金利に反映されるわけではありません。

今回の日本銀行の発表を受けても、三菱UFJ銀行と三井住友銀行は短期プライムレート(1.475%)を据え置くことを決めています。このことから企業への貸し出し金利や住宅ローン金利にはまだしばらく大きな変動は見られないと推測できます。

しかしこれまでの状況があまりに「異次元」であり、ゆっくりと「正常」に戻りつつあることに注目すべきです。さらなる利上げが続けば、やがて住宅ローンの変動金利に影響をおよぼし始めるのは必至で、それがそう遠くない未来であると覚悟すべきでしょう。

住宅ローン金利上昇で「家を失う世帯」の共通点

住宅ローンの金利上昇によって家計破綻のおそれがある家庭は、世帯年収に限らず一定数存在します。特に自己資金を入れずフルローンで購入している家庭は、すこしの金利変動で家を失う危険があります。

子供のいる世帯で30歳前後であれば、安全な融資額の目安は世帯年収の5倍程度です。税込みの世帯年収が1,000万円であれば5,000万円、500万円程度であれば2,500万円ということになります。これを超える金額は自己資金で賄うことが理想です。

金融機関が勧める無茶な融資

ところが銀行によっては、世帯年収の8倍以上の融資を行っている事例が少なくありません。その多くは、

自己資金ゼロ+フルローン+ペアローン

での購入です。

さらに地方銀行によっては返済期間が40年~50年の住宅ローン商品も存在し、最長の年数でしか審査が通らない年収の世帯も数多く住宅を購入しています。

住宅価格が高騰している昨今、ペアローン利用はめずらしくありません。しかし、自己資金が乏しいなかでの安易なペアローンは、金利変動リスクに対して非常に弱く、収入減少や病気などのリスクが加われば一気に家計崩壊へと突き進むことになります。

筆者が長年住宅購入者の相談を受けてきた経験から、今後住宅ローン金利が上昇することで家を失う世帯は激増すると想定しています。特に地方都市の低所得層で、フルローン+ペアローンにて購入している人達はリスクが極めて高いと思われます。

パワーカップルのように世帯年収が高い層にとっても、それは無縁ではありません。購入時の状況によっては、今後の金利上昇が家計破綻に繋がるおそれがあるのです。ここから金利変動+ペアローン+フルローンによって家を売却することになった事例を紹介していきます。

ペアローンで1億1,000万円の戸建てを購入したパワーカップル

<事例>

夫Aさん 36歳 会社員 年収700万円

妻Bさん 34歳 会社員 年収620万円

子供 3歳

預貯金 1,000万円

住宅ローン借入額 1億1,000万円(金利0.4%、35年返済)

毎月の返済額 20万4,152円

ボーナス時加算 45万9,698円(年2回)

AさんとBさんはともに会社員の夫婦です。大学を卒業してから大手企業に勤務し、6年前に結婚してから共働きを続けてきました。

世帯年収は1,320万円。いわゆるパワーカップルと呼んでも差し支えありません。潤沢な年収をもとに3年前に住宅を購入しました。当初は資産性の高さからタワーマンションを希望していましたが、将来の大規模修繕への不安があり、戸建てを選択。土地面積30坪、延べ床面積28坪の戸建てです。駅から徒歩10分という好立地であること、夫婦それぞれの職場まで電車で20分程度であること、狭いながらも注文住宅であることが決め手でした。

値段は1億1,000万円。年収に対して預貯金が少なく、フルローンでの購入です。世帯年収の約9倍近くにもなります。 毎月の返済額は約20万円、ボーナス時は約46万円。ふたりの年収から計算すると決して無理な金額ではありません。

しかしそれは、「元気で働けていたら」の話です。Aさん夫婦に暗雲が立ち込めたのは、住宅購入から1年ほど過ぎたころでした。

産後に起きた悲劇

住宅購入から1年後に妻Bさんが出産。産休と育児休業を十分に取得する計画を立てていましたが、出産後1ヵ月を過ぎたころからBさんは激しい動悸と呼吸困難に襲われるようになったのです。赤ちゃんの世話に神経質になりすぎたせいなのか、常に気持ちが落ち着かず、焦燥感のような感覚に24時間囚われて、気づけば涙が止まらない状態に。

出産直後から夫の母親が家に連日泊まり込み、「母というものは」「育児というものは」と古い価値観を語り続け、心底げんなりしたのも悪影響だったかもしれません。

夫は出産前と変わらずに仕事をして帰ってきて寝るだけ。Bさんを積極的に手伝おうとはしません。自分の母親がいるから安心だと思っているようでした。

「とても疲れてる」と妻Bさんが夫とその母親に訴えますが、ふたりとも「そんなの甘えだよ」と言って聞く耳を持ちません。「苦労してこそ母になるのよ」という義母の変わらない精神論に絶望的な気持ちになり、ついに自宅玄関で倒れてしまいました。

救急車で運ばれた結果、状況が深刻であると判断され、そのまま精神科への入院となりました。そこから2ヵ月後に退院したものの、家に帰ってみると、夫の母親がすっかり娘の親の役割を気取っている状態。

「あなたがしっかりしないから、子供が可哀想」と再びいつもの調子で言い始め、「昔はうつ病など存在しなかった、いまの若い女性は甘えすぎて困る」などともはや暴言を吐く有様です。

もうダメだと思った妻Bさん。夫に離婚したいと告げます。驚く夫Aさん。

「お義母さんに出ていってもらってください」といつもになく激しい口調で伝えました。母親は驚くと同時に不機嫌になり、「自分勝手な嫁なんかいらない!」と捨て台詞を吐いて出ていったのです。

夫はうろたえていましたが、その日のうちに夫と話し合いを持ちました。

「早く仕事に復帰しないと住宅ローンが払えないよ」信じられないことに、夫Aさんは住宅ローンの返済を真っ先に気にしていました。Bさんの入院中に母親が夫に言い続けていたのでしょう。

しかし夫が不安になっているのも理解はできます。毎月20万円の返済は妻Bさんも働いていないと難しいのですから、当然だとは思います。

「わかりました、仕事に復帰しますが、お義母さんは今後家に入れないでください」Bさんはそう強く念を押しました。

出産から半年後、子供を預け、病気を抱えながら無理に職場復帰しました。しかしもう以前のような仕事ができないことに気づくのにはすぐでした。

簡単な計算に時間がかかり、短い会議でも息が詰まるような気持ちになります。さすがに周囲がBさんの不調に気づいたため、病気のことを打ち明けました。部署を異動し少し仕事が楽になったものの、年収は以前よりも100万円減ってしまいました。

疲れ果てて仕事を終え、保育所に迎えにいき、自宅に戻って来て家を見ると涙が出てしまいます。あんなに欲しくて手に入れたはずの家が、いまはもう重荷になっている。そんな気持ちで押しつぶされそうです。

そんなときに、テレビでは住宅ローンの固定金利が上昇する報道があり、ついには変動金利が上昇するという話題も出始めより不安になってきました。

「金利が上がったら、私はもっと頑張らなければならないのか……」また呼吸が苦しくなりそうで恐怖を感じます。

FPに相談してみた

妻Bさんは今後、家計をどのように管理していくべきかFPに相談してみました。金利上昇のことも気になります。

FPにすべて正直に話したところ、まず言われたのは、「うつを軽く考えないほうがいいですよ」ということでした。

「うつは回復が簡単ではないうえに、しっかり休養しないと再発もします。お金のために無理に働いて、子育てもワンオペの状況では、いい方向にはいきません。仕事を失ったら元も子もありません」

FPはしっかりと休職をして、ある程度のストレスに耐えられる体調になってから復帰するほうが、損得でいっても得だと言います。しかし、傷病手当をもらえる期間は限られているし、住宅ローン金利が上がるともっと生活は苦しくなってしまいそうです。

そして不安にさせるものがもうひとつあります。妻Bさんの実家に住む妹が精神疾患を抱えているのです。両親は離婚しているため、母親がパートで働き、障害年金と合わせて生活していますが、いずれ難しくなります。そうなるとBさんが仕送りを続ける必要が出てきます。

「家を買うときにはまったく考慮していませんでした……」妻Bさんは不安そうです。

FPが状況をまとめると次のようになります。

・住宅購入時にリスク対策をまったく取らなかったのはミス ・ペアローンなら大きく借りられるにしても、借り過ぎている ・住宅ローンの返済、親への仕送り、子供の教育、自分たちの老後を同時に対策しなければならない ・夫婦のコミュニケーションが雑であるため、この現状でも「頑張る」しか解決策がなくなっている

そこで現状を改善するためにアドバイスされたことは、

・住宅よりも、健康と仕事を維持することが重要 ・いまは休職をし、休養と子育てに専念する ・住宅ローンの変動金利は上がっていくので状況はもっと苦しくなる ・家を任意売却することを検討する ・オーバーローンは残るが、今より生活は楽になる ・賃貸暮らしを続け、定年退職後に購入する金融資産は作れる

「健康が戻ってくれば、やり直しはきく世帯年収です。仕事を失わないようにだけしてください」とFPが言います。

せっかく購入した家をわずか3年で売却するのは、近隣からも好奇の目で見られるかもしれませんが、無計画なペアローン、そして変動金利での多額の借入をしたのがミスだったと諦めることにしました。

夫Aさんにその旨を話すと、とても困惑していました。しかし夫だけの年収で返済していける借入額ではありません。やり直しがきくならいくらでもやり直したほうがいいはずです。夫Aさんは自分の母親の顔色をまた気にしていましたが、やがて覚悟を決めたのか任意売却するための業者を選び始めました。

安易に家を買ったのが失敗だったと、夫婦で話し合えるほどには感情も落ち着いているようです。

ペアローンを選択する前に考えるべきこと

金利上昇のリスクとペアローンのリスクは非常に密接な関係にあります。

ペアローンを利用する人の理由としては次のようなものがあります。

1.ペアローンを利用しないと希望する額の融資が受けられない 2.夫婦ともに減税メリットを活かしたい 3.夫婦で協力して支払うので、お互い対等に持分を登記したい

このなかで最も危険なのが、(1)です。融資額を増やすためにペアローンを利用するということは、年収が低いか、希望する物件の値段が高すぎるかを意味しています。

必然的に住宅購入後の家計の収支はギリギリになるため、金利上昇リスク(返済額が増えるリスク)を吸収する余裕がありません。金利上昇に加えて、病気や収入減少に見舞われると一気に家計が狂っていきます。

事例の妻Bさんのように病気を経験すると、金利上昇を避けるために借り換えを行おうとしても団信に加入できず審査NGとなります。リスクが高い借り入れに、病気などのネガティブな要素が加わることでリスク回避がより難しくなるのです。そのため本来優先すべきこととしては、

・自己資金を貯め、借入額を減らす努力をする ・なるべく単独債務で借り入れし、夫婦どちらかの年収が残れば返済ができるようにする ・団信と生命保険のかけ方を工夫し、万が一のときに住宅ローンの返済に困らないようにする ・金利上昇を具体的に見込んだ返済計画を立てておく

これらは自力では不可能です。専門知識のあるFPなどに相談し、返済計画とリスク対策を練ることをお勧めします。  

長岡 理知

長岡FP事務所

代表

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