80年代以降、人気が衰えた〈初代ミニ〉に代わり、2001年に登場したBMW社開発の〈新生ミニ〉が飛ぶように売れたワケ【歴史】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年5月28日 13時0分
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自動車の歴史を語るにあたり、特筆すべき潮流の一つが、2000年代の「レトロ回帰」。一見、ハイブリッド車などの新しい提案と逆行する、50年代の名車のリバイバルブームですが、実は「EVの最先端と表裏一体である」と、自動車評論家の鈴木均氏は語ります。鈴木均氏の著書『自動車の世界史』(中央公論新社)より、その言葉に秘められた意味を見ていきましょう。
レトロ回帰の先駆
2000年代に特筆するべき潮流の一つが、ハイブリッド車などの新しい提案と逆行するような、レトロ回帰である。かつて50年代に一世を風靡した名車たちが、次々にリバイバルした。
先陣を切ったのは、VWだった。トヨタ・プリウスとホンダ・インサイトが登場したのと同じ頃、1998年(日本は翌99年)にVWニュービートルが発売された。初代ビートルの「丸っこいデザイン」を引き継ぎつつ、ゴルフの車体を流用して前輪駆動のFFに改められ、普通のファミリーカーと同じ構造となった。
旧ビートル同様にメキシコで生産され、日本で需要が多いオートマ車の変速機はアイシン製だった。2012年にはザ・ビートルと名前を改め、今度はジェッタの車体を流用して19年まで生産された。室内空間や荷室は四角い車の方が有利のため、新ビートルは「国民車」とはならなかった。
だがグローバルに車を売る必要や様々な衝突安全基準への対応から、どの車も似たような形や大きさに収斂してきたことに対して、VWは自ら送り出した歴史的アイコンを最大限利用し、再解釈を施した上で、他の人と違う車に乗りたい(コアな)ユーザーをつかんだ。
レトロ回帰と最先端EVの関係
1959年に登場した初代ミニは豪州、イタリア、ベルギー、ポルトガル、南アフリカ、中南米諸国、そしてユーゴスラビアでも生産されたが、80年代に入り人気に陰りが出はじめた。
ローバー800/ホンダ・レジェンドを生み出した両社の提携は90年代に入って解消され、94年、親会社で防衛産業大手のBAe(現:BAEシステムズ)はローバーを、小型車を開発しようとしていた独BMWに売却した。BMWは頑なにFR、前後輪重量配分50対50を守ってきたが、2001年に登場した新生ミニで初めてFF車を売ることになった。英オックスフォード工場で生産され、ディーゼル車のエンジンはトヨタから供給された。
ミニは発売直後から飛ぶように売れ、全長を長くしたクラブマン、高性能版のクーパーSなどの派生車種も充実した。愛嬌のあるデザインながら、走りは初代ミニらしい機敏さに加え、BMW的な安定も手に入れた。そしてBMWも2004年、初の小型車、1シリーズを登場させたが、19年からこれをFFに改め、大きな一歩を踏み出した。
ミニはBMWの先端的な開発を担い、早くも2009年にはEVのミニEを500台、リース販売や実証実験に提供した。最高速こそ150キロほどだが、時速100キロに8.5秒で到達するなどミニ・クーパーよりも早く、航続距離240キロを謳った。BMWは2021年、ミニを30年代には完全なEVブランドに移行させると宣言している。BMW自身もミニEで得た知見を活かし、EVのi3を登場させた。レトロ回帰は、EVの最先端と表裏一体なのである。
EVという「カルチャー」
イタリアのフィアット500の先代は1957年に登場し、50周年を記念して2007年に再登場した。外観はニュービートルやミニと同様、先代のイメージをうまく踏襲しながら、エンジンや電装は現代的な装備で固められた。
新しいフィアット500は本拠地トリノで組み立てられた「ありがたい」レトロではなく、ポーランドとメキシコの工場から出荷されるが、トリノの工場跡はレストアされ、街全体が歴史遺産を中心に据えながら再生されている。
21年には「カーザ・チンクエチェント(フィアット500の家)」が工場跡の再開発地区の一角にオープンし、歴代フィアット500のみならず、エスプレッソマシンやボトルオープナーなど日常生活のなかの様々なイタリアの工業デザインに触れることができる。
フィアットは2020年にEV版の500eを発売したが、車種ごとに特徴が出やすいエンジンと異なり、個性が出しにくい電池とモーターを組み合わせたEVを発売するにあたり、同社は歴史的な積み重ね、「味」やカルチャーを前面に出した。トリノの「カーザ」には当然、フィアット500eが先代500と共に展示されている。
鈴木 均 合同会社未来モビリT研究 代表
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