「あの家を守ってくれ」亡き夫に託された郷里の不動産だが…優しい70代妻が売却に踏み切った、小姑たちの〈まさかの言動〉
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年4月14日 11時45分
(※写真はイメージです/PIXTA)
夫を亡くした高齢女性は、夫の遺産の一部である、夫の郷里の実家不動産について頭を悩ませていました。亡き夫はずっと家を守ることを希望していましたが、女性と子どもたちには、大きな負担となってしまいます。どうしたらいいのでしょうか。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、事例をもとに解説します。
夫が急逝した悲しみのなか、相続の不安が…
今回の相談者は、70代の専業主婦の山田さんです。5カ月前に亡くなった夫の相続の件で相談があると、筆者の事務所を訪れました。
山田さんの夫は都内の企業を定年退職後、地元企業へ転職し、亡くなる数カ月前まで勤務していました。普段から元気で、とくに変わったところはなかったそうですが、定期健診で病気が発覚。退職して治療に専念したものの、残念な結果になったそうです。
「本当に元気な人で、まさかあんなに早く亡くなるなんて思ってもみませんでした。これから夫婦でゆっくりしようと思っていたのに。正直、まだ心の整理がついていない状態です。でも、相続が心配で…」
そういうと、山田さんはつらそうにうつむきました。
山田さんの夫の財産は、埼玉県の自宅マンションと預金、株などの有価証券のほか、生まれ故郷の長野県の実家もあるそうです。
「夫は亡くなるとき、私と2人の息子たちの目をまっすぐに見て〈本当にありがとう。お父さんは幸せだった〉といったあと〈長野の家を守ってくれ、頼んだぞ…〉といいのこして旅立っていきました…」
山田さんが悩んでいるのは、まさに夫の郷里の実家不動産のことでした。
「ハッキリいって、損しかしていません!」
山田さんの生活拠点は現在の自宅であり、2人いる息子さんも東京にマンションを購入し、妻や子どもたちと暮らしています。
「夫は4人きょうだいの長男で、下には妹が3人います。夫は東京で就職し、生活拠点もずっとこちらでしたが、故郷への思い入れが強く、私たち家族を伴い、しょっちゅう帰郷していました。舅と姑が亡くなったあとは夫が相続して管理し、なにかというと妹たちやいとこたちを集めていました」
山田さんの夫の実家は駅から遠く、建物は古い日本家屋で、価値のあるものではないそうです。
「義妹たちは全員夫から鍵をもらっていて、勝手に出入りしています。でも、光熱費はすべて夫持ちですし、集まったときの支度や後始末はすべて私。親族は、長男の夫が全財産を相続したから当然と思っているようですが、家は古いし、預貯金だって雀の涙。ハッキリいって、損しかしていません…!」
夫を亡くしたときのエピソードから現実的な話に切り替わると、涙をこらえていた山田さんも次第にヒートアップしていきました。
遺産分割については母と息子で同意ずみ、懸念はやはり…
筆者と提携先の税理士が山田さんから預かった資料を確認したところ、夫の財産は、相続税の基礎控除を上回ることが分かりました。
しかし、配偶者には「1億6,000万円まで無税」という配偶者控除の特例があります。その特例を生かして山田さんが全財産を相続すれば、相続税はかかりません。
山田さんの2人の息子たちは、母親の老後の生活資金を確保するため、全財産を母親が相続することで同意してるとのことで、相続手続き自体はスムーズな着地が見えていました。
唯一の懸念事項は、長野にある夫の実家をどうするかという問題でした。
自由に出入りしていた妹3人に、買い取りの話をしてみたら
山田さんは、夫の実家不動産に思うところがある一方で、夫が言い残した「本家を頼んだぞ」という言葉が忘れられないといいます。
「息子たちに〈あの家を相続してもらえないか〉と聞いたところ、長男も二男も声をそろえて〈イヤだよ〉と…」
税理士は山田さんに、自宅から遠く、山田さんや息子さんたちが行く機会もほとんどないこと、そして、将来暮らす可能性もないことを確認したうえで、今後の維持管理費や固定資産税について説明し、息子さんやお孫さんの負担にしかならないとアドバイスしました。
筆者からも、活用できない不動産は、メンテナンス費用や固定資産税がかかるだけの「お荷物」になってしまうため、速やかに手放すことがおすすめだとお話ししました。
とはいえ、この家には夫の妹やいとこ、その子どもたちが集まる拠点となっていることから、地元在住の親族に、まずは売却を打診することになりました。
お金がかかるだけの「負動産」売却を決意
数週間後、山田さんから連絡がありました。
「先生、長野の実家は売却することに決めました。長男が対応してくれて、不動産会社と話が進んでいます」
山田さんは、夫の3人の妹たちに売却を打診したところ、全員がそっぽを向いたそうです。
「私が事情を説明して〈買ってもらえないかしら?〉と話したら、全員が〈お金がかかるからイヤよ〉っていうんです…」
山田さんはうんざりした様子で続けました。
「維持管理の費用や水道光熱費は全部夫の負担で、集まるときの準備や片づけは全部私の負担。夫がいないときも好き勝手に出入りして散らかしても〈どうせお義姉さんが片付けるから〉って知らん顔。そりゃあ、そんな役割、引き継ぐのは嫌ですよね」
「いちばん上の義妹は、仏壇のなかのお位牌だけ持ち出して〈お仏壇の後始末も、ついでにお願い〉ですって…」
お優しい山田さんは、愛するご主人のためにずっと我慢されてきたのでしょう。驚きのエピソードでしたが、筆者は正直ほっとしました。住むこともできず、利益を生み出すこともない不動産は、自分はもちろん、子どもたちの負担にならないよう、速やかに処分したほうがいいからです。
先代から土地を相続した方は思い入れもあり、自分の代で土地を手放すわけにはいかないという思いが強く、その土地に住んだり活用していなくても、固定資産税や維持費を負担し続けている方もあります。しかし、それではほかからの収入を充てているにすぎず、プラス財産とはいえません。
不要な不動産を処分して身軽になり、売却代金と支払う予定だった納税資金を別のことに活用したほうが、ずっと建設的ではないでしょうか。
過疎が進む亡夫の故郷で、すぐに買い手が見つかったのは幸運でした。山田さんには、これを機会に身軽になって、これからの人生を楽しんでいただきたいと思います。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子 株式会社夢相続代表取締役 公認不動産コンサルティングマスター 相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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