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「月100万円」がボーダーライン!? “節税”と“会社の成長”を両立する「役員報酬額」の正解【公認会計士の助言】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年4月23日 11時15分

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(※写真はイメージです/PIXTA)

個人としての収入もしっかり確保しながらも、余計な税金は払わずに済む「役員報酬の適正額」はいくらなのか……この経営者の悩みに対して、税理士法人グランサーズの共同代表で税理士・公認会計士の黒瀧泰介氏は「月100万円」がひとつの目安だといいます。その根拠とはなんなのか、役員報酬を高く設定した場合と低く設定した場合、それぞれのメリット・デメリットと「適正額」の理由をみていきましょう。

お金は「個人」・「法人」どちらに残すべきか?

「お金は個人・法人どちらに残すべきか?」

……これは永遠のテーマというか、なかなか結論が出ない話です。今回改めて、会社と社長、それぞれに多くお金を残した場合のメリット・デメリットを比較して、どちらに残すべきか黒瀧さんと決めようと思います!

黒瀧氏(以下、黒)「決めちゃうんですね(笑) わかりました。お金を法人・個人のどちらに残すべきかというテーマは、言い換えると「役員報酬をどのように設定すべきか?」という問いになります。

役員報酬の設定には、税金面での有利・不利に加えて、会社の経営方針やプライベートの事情などさまざまな要素が絡んできます。

これらを考慮に入れたうえで、会社と社長のそれぞれに多くお金を残した場合のメリット・デメリットを比較してみましょう」

会社にお金を残すと「税率」で有利

――ではまず、役員報酬をある程度低く抑えて、会社に多くお金を残すメリットというとはどんなものが挙げられるでしょうか。

黒「会社に多くお金を残すと、税率で有利になる可能性があります。法人税についてみていくと、住民税・事業税などをあわせた中小企業の実効税率は約34%です。

一方、所得税はご存知のように累進課税となっていて、控除額を除いて最高税率は45%、住民税10%と合わせると最高で55%にものぼります。

ポイントとなるのは図中5段目の税率が33%に上がるところで、課税所得が900万円を超えると、所得税に住民税を足した税率が法人税率より高くなります。

課税所得899万9,000円までは住民税10%とあわせても税率33%なので法人税34%より低いですが、課税所得が900万円からは所得税33%+住民税10%=税率43%になり、法人税より高くなってしまいます。

この高い税率を払うぐらいだったら、会社に利益を残して法人税を払ったほうが税金的には有利になる、というイメージです」

――所得税は累進課税なので、個人での稼ぎが多くなるほど、法人税より負担が大きくなってしまいますよね。この場合、会社に多く残したほうが「手取りが多くなる可能性」があるというわけですね。

「融資」が受けやすくなるのも大きなメリット

黒「もう1つのメリットは、融資が受けやすくなる点です。

会社に多くお金を残すことで会社の財務体質を強化し、会社を発展させるための事業基盤をしっかり作ることができます。

内部留保が多ければ一般的に倒産リスクも低いため、金融機関からの信頼が厚くなり、融資を受ける際にも有利に働きます」

――その融資で新たな事業へ投資を行い、さらに内部留保を拡大していく、という形でよい循環を作ることができますね。

黒「はい。節税することによって手元にキャッシュを残し、それを元手に新たな投資につなげていくことで、会社の基盤を強くすることができます。

ただし、節税のつもりが“ただの経費の無駄遣い”にならないように注意していただきたいですし、ときには、しっかり法人税を納めたほうが財務体質が強くなることも覚えておいていただきたいです」

「会社の財布」と「社長の財布」は異なる

――では反対に、会社に多くお金を残すことのデメリットはありますか?

黒「ひとついえるのは、お金の自由度が低いということです。

会社の財布と社長の財布は、決して同じではありません。法人の資金の使い道は当然ながら、事業資金や社宅・社用車・交際費など、ビジネスに関わるものに限定されます。ですから、キャッシュの自由度は、個人のお金と比べると低いといえます。あくまでもお仕事のためにしか使えません」

「役員貸付金」が発生すると融資が受けにくくなる

黒「もうひとつのデメリットは、「役員貸付金」が発生する可能性がある点です。会社に多くのお金を残そうとして、社長の役員報酬を極端に少なくしている場合を考えてみましょう。

役員報酬を低くすることで、社会保険料や所得税の支払いは下がります。しかし、たとえば「月5万円」や「月10万円」など極端に役員報酬を少なく設定すると生活費が足りなくなってしまいます。

ここで仮にプライベートの支払いを会社の口座から行った場合、これは「会社から役員(社長)へお金を貸している状態」ということになります。これは「役員貸付金」という勘定科目で処理されます。

この役員貸付金には融資が受けにくくなるという大きなデメリットがあるため注意が必要です」

――どうして融資が受けにくくなるのでしょうか?

黒「金融機関は

●期日までにきちんと返済してくれるか?

●お金が適切に使われるか?

という点を融資の判断材料にします。

仮に決算書に多額の役員貸付金が載っている場合、銀行の立場からすると、貸したお金が会社の事業に使われず、社長個人や、他の会社に流用される可能性を危惧されてしまいます。

そのため、融資の条件として、役員貸付金の清算、つまり役員貸付金を減らすように求められることもあります」

――役員貸付金は融資の際に、非常に不利に働くんですね。

黒「そうなんです。したがって、会社に多くのお金を残すとしても、最低限、会社からお金を借りなくても済むような額を役員報酬に設定することをおすすめします」

個人にお金を残すと「自由度が上がる」が手残りが少ない

――では次に、役員報酬を高めに設定して、社長個人にお金を多く残すことのメリットについて伺いたいと思います。

黒「これはなんといっても、会社に残したお金より、社長個人に残したお金のほうが、自由度が高いという点です。

個人の資金であれば、特段会社に縛られることなく、基本的になにに使っても自由です。生活費はもちろん、お子さんの教育費、住宅ローン代、プライベートの高級車代etc……自由に使うことができます」

会社の資金繰りが悪ければ「補てん目的」で使うことも可能

――高い所得税を払ったあとのお金ですから、ある意味なにに使おうが勝手というか、文句を言われる筋合いはないですよね。

黒「そうですね(笑) 社長が役員報酬で受け取るお金は、上記のようにプライベートで使っても構いませんし、もし会社の資金繰りが悪ければ「補てん目的のお金」として使うこともできます。このように、社長個人のキャッシュを会社に貸すことを「役員借入金」と呼びます。

この役員借入金は金融機関からの借入とは違い、返済期日や利息が自由に定められるというメリットがあります。利息なしでも問題ありません。

ただし、役員借入金は役員が亡くなったときに相続財産として相続税の対象になるので、その点は注意が必要ですね」

――なるほど。いずれは解消したほうがよさそうですね。

黒「そうですね。長期間放っておくというわけにはいきません」。

――社長個人にお金を残したほうがお金の自由度は高いということですが、デメリットはどんなものがあるのでしょうか。

黒「デメリットとしては、税金や社会保険料が増加する、という点が挙げられます。

さきほど確認したように、個人での所得税の負担は、課税所得900万円を超えると法人税率を上回り、住民税と合わせると税率55%まで達します。

また社会保険料の負担も、基本的には役員報酬が上がれば増加します。社会保険料の負担は年々上がっていて、現在は給与の約30%の金額を、会社と従業員で折半して負担している状態です」

――形としては会社と社員で折半とはいえ、結局オーナー社長からすると約30%をすべて負担しているようなものなので、この負担は経営者にとっては本当に頭が痛いですよね。

役員報酬を上げた場合、お金の自由さを確保できる一方で、手残りが少なくなることを覚悟しておかないといけなそうですね。

「役員報酬」のベストな金額は「年1,200万円」!?

――さて、結論としては社長に多く残す場合と個人に多く残す場合、結論としてはどっちが有利なんでしょうか?

黒「……場合によります」

――いやいや、もう少し詳しくお願いします(笑)

黒「では、ベースとなる考え方をお伝えしましょう。役員報酬を1,300万円以上もらうと、所得税33%プラス住民税10%で税率43%と負担が大きくなり、個人の手取りもあまり増えません。

役員報酬が1,200万円、つまり月100万円くらいであれば、課税所得900万円の壁を下回り、税率も住民税とあわせて33%で済みます。

つまり、この金額で生活に支障ないようであれば、あとは法人に多く残すことを基本にしてはいかがでしょうか」

――なるほど。法人に残るキャッシュはどう使うべきでしょうか。

黒「新たな事業資金・設備投資などに活用して、会社を強くしていくことに使うのが1つです。

また経営セーフティ共済などを活用して、いわば「簿外資産」のような、会社に留保しておくお金を確保することもできます。経営セーフティ共済は1社最大800万円まで加入でき、掛金は全額が法人の損金として認められます」

――弊社も加入していますが、いざというときにすぐに戻せるし、安心感がありますね。

黒「はい。また、その返戻金を、退職金の資金とすることもできます。退職金は「分離課税、退職所得控除、2分の1課税」が適用になるので節税効果が期待できますし、社会保険料が一切かからないというのもメリットです」

――では、以上の事を基本方針として、あとはケースバイケースで判断していくということでしょうか。

黒「そうですね。たとえば新設法人などの場合、資金繰りを安定させ融資を受けられる体制を作ることが先決なので、最初のうちは役員報酬をある程度低くして、会社生き残りのためになるべく法人にお金を残す、という方針が考えられます」

――では、個人に多くお金が必要な場合はどうでしょうか。たとえば住宅ローンの支払いが多いなど。

黒「『生活費・教育費がかさむ』『それほど事業拡大を考えていない』といった場合には、

中小企業の軽減税率適用ラインである年800万円に収まるくらいまで法人の利益が出るようにして、残りは役員報酬として個人に払い出す形でいかがでしょうか。

黒瀧 泰介

税理士法人グランサーズ共同代表/公認会計士・税理士

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