医師の「安静にして」に潜む罠。80歳妻が脚を骨折、夫「僕がやるから寝てて」…思いやる気持ちが、辛すぎる結果へ【理学療法士が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年5月9日 10時15分
※画像はイメージです/PIXTA
医師から「できるだけ安静に」と言われると、なるべくベッドから動かないようにする人は多いでしょう。しかし誤った「安静」は恐ろしい結果を引き起こす可能性があるようで……。本記事では、リタポンテ株式会社取締役であり理学療法士の上村理絵氏による著書『こうして、人は老いていく 衰えていく体との上手なつきあい方』(アスコム)から、安静のリスクについて解説します。
「安静に過ごしてください」がもたらす罠
年齢を重ねれば、何かしら、病気やけがを抱えているものです。
病気やけがの症状が改善し、いよいよ病院通いが終わろうとすると、医師からひと言、「しばらくの間は、安静に過ごしてください」と言われることがあります。多くの方は、そこで「わかりました」と答えて、お帰りになるでしょう。
この「安静」という言葉が、ご本人やご家族に重くのしかかり、肉体的・精神的な老化を進めてしまうケースが少なからずあるのです。
大腿骨を骨折し、夫に「すべて」任せきりになった80歳女性
谷口さんの場合も、そのケースに当てはまります。80歳になった彼女は、2023(令和5)年の2月に、知人を亡くされたことにたいへんなショックを受けて、うつ病を患い、体を動かすことができなくなり、病院に入院しました。
ところが、その入院先で転倒してしまい、右の大腿骨の付け根を骨折。入院が長引きます。退院後の6月、谷口さんは、私たちの施設を訪れ、リハビリを開始しました。しかし、それから間もなく、自宅で転倒。今度は、以前骨折したのとは反対側の左の大腿骨を骨折してしまうのです。
2月の最初の入院以来、谷口さんを献身的に看病し、支えてきたのは、谷口さんのご主人でした。ただ、ご主人は「できるだけ安静に」という医師の言葉に過剰に反応し、奥さまを心配するあまり、谷口さんが何をするにもベッタリと寄り添うようになったのです。
家事はもちろん、谷口さんの身の回りのことも、何から何まで、ご主人がこなしてしまいます。はたから見る分にはほほ笑ましい光景に映るのですが、リハビリの観点からはあまり好ましい状況とはいえません。
人間の体は、使わなければ、その分、確実に機能が衰えます。入院した経験がある人なら、想像がつくのではないでしょうか。1カ月どころか、1~2週間ベッドの上で過ごすだけで、足腰の筋力が途端に衰え、元通りの感覚で歩けるようになるまで、かなりの日数がかかります。
筋肉のつきやすい若い人であれば、多少ゆっくりできるのかもしれませんが、それでなくても加齢で筋肉が衰えている高齢者にとっては退院後が勝負です。入院やけがをした高齢者は、「安静」にしている時間をできるだけ短くし、体をいち早く動かして、身体機能の改善に努めないと、取り返しのつかないことになります。
ご主人が谷口さんの体をいつも支えるように歩き、一切の家事も、身の回りこともすべてこなすことは、谷口さんから体を使う機会を奪うということです。簡単な家事も任せられず、靴下や靴まで履かせてもらうのでは、足腰の筋力ばかりか、ほかの部位の筋力やバランス感覚、認知機能まで低下させてしまう恐れがあります。
「安静に」で、度を越えた手助けをしないように
身近な人が骨折をしたり、何らかの障害を抱えたりすれば、手助けしようとするのはごく自然なことです。しかも、医師から「安静に」と言われたのなら、なおさらです。
ただ、あまりに過敏に反応しすぎで、先回りして、本人に頼まれていないことにまで手を出すのは、できるだけ控えてください。度を越えた手助けは、その人が改善するのを妨げ、場合によっては寝たきりにつながらないとも限りません。
「安静に」と言われたら、寝たきりを防ぐためにも、できるだけ早く体を動かしたい旨をしっかりと医師に伝え、どれぐらいの期間安静にしなくてはならないのか、どういうことならやってもよいのかを確認しましょう。
そして、その答えがあまりにも長期間である場合には、セカンドオピニオンとしてほかの医師の意見を聞くのも選択の1つです。
上村 理絵 理学療法士 リタポンテ株式会社 取締役
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