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大企業社長・父から「巨万の富」を“生前贈与”されるも「約1,300億円」の贈与税が“ゼロ”となったワケ【日本の法改正に影響した<平成の出来事>】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年6月1日 8時15分

大企業社長・父から「巨万の富」を“生前贈与”されるも「約1,300億円」の贈与税が“ゼロ”となったワケ【日本の法改正に影響した<平成の出来事>】

(※写真はイメージです/PIXTA)

平成の時代、生前贈与された財産にかかる「約1,300億円」に及ぶ贈与税が、「支払い義務なし」と裁判で認められる事件が起こりました。本記事では<株式会社T&T FPコンサルティング>の髙島一夫氏・髙島宏修氏、<株式会社ユナイテッド・パートナーズ会計事務所>の西村善朗氏・森田貴子氏らによる共著『富裕層なら知っておきたいスイス・プライベートバンクを活用した資産保全』(総合法令出版)から一部抜粋し、相続税の歴史について解説します。

国外財産にも相続税がかかる場合がある

相続税の場合、死亡した被相続人だけでなく相続人の居住状況なども納税義務の判定に影響します(図表6―2)。

相続税の納税義務には複数のパターンがありますが、とくに重要なのが「無制限納税義務者」と「制限納税義務者」のどちらに該当するかという点です。

「無制限納税義務者」とは?

「無制限納税義務者」には「居住無制限納税義務者」と「非居住無制限納税義務者」があります。居住無制限納税義務者は「相続または遺贈によって財産を取得し、その財産を取得したときに日本に住所を有する個人」、非居住無制限納税義務者は「相続または遺贈によって財産を取得し、その財産を取得したときに日本に住所を有しない個人」と規定されています。

「制限納税義務者」とは? 「無制限納税義務者」との違い

「制限納税義務者」とは、相続または遺贈によって日本国内にある財産を取得し、その財産を取得したときに日本に住所がない個人をいいます。

無制限納税義務者の場合、国内財産と国外財産のどちらも相続税の課税財産になります。

一方、制限納税義務者であれば、国内財産のみが課税対象となり、国外財産は相続税の課税財産になりません。

ここで、「海外に移住して財産も国外に移せば、日本の相続税を払わなくていい」と思われるかもしれませんが、これを実現するのはかなり困難と考えられます。というのも、このような税逃れを封じる税制改正がすでに行われているからです。

たとえば、相続開始時点で被相続人と相続人のどちらか一方でも国内に住所を持っていたら、その時点で無制限納税義務者になります。また、たとえ相続を見越して海外に住所を移したとしても、被相続人と相続人のどちらかが相続開始前10年以内に日本国内の住所を持っていたら、やはり無制限納税義務者と判定されます。

以前、相続税の規定はここまで厳しいものではありませんでした。平成12年(2000年)度の税制改正前は、日本国内に住所を有していなければ、たとえ日本国籍であっても制限納税義務者と判定され、国外財産は相続税などの課税対象にはなっていなかったのです。

以来、相続税などの納税義務者の判定については改正が重ねられて現在に至るわけですが、こうした改正は、海外移住やキャピタル・フライトによる、つまり、国外財産を制限納税義務者に贈与または相続して、日本の相続税・贈与税を逃れるという、税逃れに対する財務省の危機意識があったと考えられます。

海外資産の相続税に影響を与えた、武富士事件

ここで特に影響したと考えられているのが、いわゆる「武富士事件」です。事件が起きるきっかけは、消費者金融大手として知られる武富士の創始者が、香港に在住する長男に海外法人の株式を生前贈与したことにありました。

当時の相続税法では、海外の居住者が国外財産を贈与や相続で取得した場合、課税対象外とされていたため、当然ながら長男は贈与税の申告をしませんでした。

ところが、この事実を把握した税務当局は、約1,300億円の贈与税を申告しなかったと判断し、贈与税の決定処分を下します。つまり贈与税を半ば強制的に課したのです。この処分の根拠とされたのが、「住所」の解釈にありました。

税務当局側は、「香港の住所は税法上の住所ではなく、長男の住所は国内にある」と主張しました。この判断の根拠については複雑なため説明を割愛しますが、税務署としては「香港は税逃れのための仮の住所」という判断をしたことになります。

贈与税の決定処分を受けた長男は、処分を不服として訴訟を提起しました。この訴訟は最高裁まで持ち越され、最終的に2011年2月に長男の勝訴が確定しました。「長男の住所は国外(香港)にある」と判断されたため、当時の法律では「長男は贈与税を申告・納税する義務はない」という結論が出たことになります。

武富士事件は法改正に発展

このように、武富士事件そのものについては、国側が敗訴したわけですが、これら一連の訴訟が行われている間に、財務省は外国籍を取得する贈与スキームに対して、国外居住者や国外財産に対する相続税や贈与税の締め付けの強化を始めました。

2013年の税制改正において、日本に住所がある者からの贈与については、国外居住者で日本国籍がない者に対しても、すべての財産が課税対象になっています。こうした流れから、今のような海外移住による税逃れがしにくいルールになったのです。

相続税の納税義務者の判定は、税務調査で着目されることが少なくありません。自身が制限納税義務者と考えて国内財産だけを申告していたら、税務調査により生活の本拠地が日本と認定され、国外財産も含めて修正申告をするよう求められることがあります。

髙島一夫

株式会社T&T FPコンサルティング

代表取締役社長CFP

髙島宏修

株式会社T&T FPコンサルティング

取締役CFP

西村善朗

株式会社ユナイテッド・パートナーズ会計事務所

代表取締役税理士

森田貴子

株式会社ユナイテッド・パートナーズ会計事務所

パートナー税理士

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