日本を代表する名匠「黒川紀章」「村野東吾」の建築が堪能できる!…大阪〈なんば・心斎橋〉で是非足を運びたい「名建築」13選
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年5月29日 11時0分
(※写真はイメージです/PIXTA)
日本を代表する人気観光地、大阪のなんば・心斎橋エリア。かつて道頓堀の顔であった「大阪松竹座」や、今もなおなんばの顔である「高島屋大阪店」など、人々に長く親しまれる名建築を堪能ことができます。建築家である円満字洋介氏の著書『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ 増補改訂版』(エクスナレッジ)より、大阪に訪れたら是非足を運びたいスポットを紹介します。
大阪がヴェネツィアだった時代の残り香
道頓堀の劇場建築は次々と姿を消し、今では松竹座が残るばかりだ。それでも町の構造は昔のままで、道頓堀と道頓堀通りとの間の狭い敷地は芝居茶屋のあったなごりだ。それは、ここがヴェネツィアのような川に面した劇場街であったことを教えてくれる。
01.ダイナミックな吊り橋型がユニーク!「心斎橋筋商店街のアーケード」
心斎橋筋商店街のアーケードは吊り橋構造だ。とても珍しい。心斎橋筋と直行する通りとの交差点に4本の柱を立て、その上に2本柱の塔を据えて、そこからワイヤーを張ってアーケードを吊っている。通常は商店街沿いに柱を立て並べてアーケードを支えるが、店前に柱が立たないよう調整するのがたいへんだ。複数の店舗をひとつのビルに建て変える際にも柱が邪魔になる。しかし吊り橋構造ならば柱は極端に少なくなり見通しもすっきりする。まるでミラノのパッサージュ(ガラス屋根のアーケード)のようだ。
02.まるで宇宙コロニー!? 建築家・村野藤吾の秀作「浪花組」
東に向かい、八幡筋に面した浪花組(なにわぐみ)は、1922年、堺で創業した左官工事を専門とする企業。当時村野のパトロンのひとりだったそうだ。凹凸の激しい興味深い建物だ。平瓦を貼ったバルコニーが突き出していて、その上に出窓風の窓が付いている。窓と窓のあいだの立体的な飾りは銅の板金で、社寺建築の飾り金物に似ている。この部分がパラボラアンテナのように見えておもしろい。技法や素材は伝統的でありながら全体として宇宙コロニーのような印象を与えている。
03.“鎮ブロック”で作られた「島之内教会」
北へ向かい、周防町を越えると島之内教会がある。中村鎮の発明した「鎮ブロック」で作られた初期のコンクリートブロック構造の作品だ。彼はこの工法を応用して各地に教会堂を設計している。もっとも大きな特徴は通りに向けて大型の回廊を作っていることだ。この回廊のおかげで、町と教会とがスムーズにつながっている。工法だけではなく、そうした計画上の工夫も評価したい。
04.面白味のある擬洋風ビリヤード室「旧住友邸撞球室」
堺筋を渡り、東横堀の手前の旧住友邸撞球室は、よく残ったものだ。ここが住友家の拠点だった場所だ。江戸時代、銅の製錬所としては日本最大で、全国の生産量の1/3を占めたという。大阪に造幣局があるのは、ここに住友家があったからではないかと思う。明治になって精錬所は廃され庭園となり、ビリヤード室はその付属屋として作られている。擬洋風的なデザインだが、表側は完全に和風の土蔵造りになっているところがおもしろい。これ見よがしなことを避けたのだろう。
05.昭和から現在への架け橋「九之助橋」
東横堀に架かる九之助(くのすけ)橋、これは都市計画橋梁のひとつである。江戸時代、橋の東側は瓦師の工房で西側には住友家の本宅と銅の精錬工場があった。両岸とも火を扱う工業地帯だったわけだ。その真ん中をこの運河が通っている。どちらも重量物を扱うのだから積み降ろしの船でさぞ混雑したことだろう。橋の上に立っているとそんな風景が見えた。
06.控えめなデザインで佇む「久野産業大阪本社ビル」
三津寺筋で堺筋に戻る手前の久野産業大阪本社ビルは、金属系商社の本社ビルだ。控えめなデザインなのは社風を表しているのだろうか。不思議なのは入り口が3つあること。右側のは大きめだから商品の搬出入口なのだろう。角は建物の正面なのでやはり事務所の玄関だと思う。左端は通用口ではないか。玄関はお客さんだけしか使えず、社員や関係業者の出入りは通用口を使うのかも知れない。
シンプルながらも美しい、長く愛される名建築
07.黒川紀章の伝統継承「国立文楽劇場」
千日前通りに面した国立文楽劇場は、前身である朝日座の面影をベースにしている。おもしろいのは黒いタイルと白い目地の取り合わせだ。これも朝日座のイメージを踏襲している。吉田五十八の設計した朝日座は、黒地に白い斜め格子のラインが入ったなまこ壁風のデザインだった。黒川は大きく湾曲させたファサードの表面に、かつての朝日座のイメージを貼り付けたわけだ。わたしはよく考えられた建築だと思う。
08.“グレートサバイバー”文化財「大阪日本橋キリスト教会」
日本一の交差点から少し南の大阪日本橋キリスト教会で、以前お話をうかがったことがある。大阪大空襲の夜、集まってきた信者さんたちが防火戸を次々と閉めてまわり、そのおかげで内部に火が回らずにすんだという。危機を乗り越えた建物のことをグレートサバイバーと呼ぶが、この教会堂はまさにそれだ。現在はきれいに改修され、登録文化財となっている。大切にされている建物を見るのは気持ちがいいものだ。
09.上質で濃厚な名古屋アールデコ「高島屋東別館」
日本橋3丁目角の高島屋東別館は、名古屋の建築家鈴木禎二の作品である。ここはもともと、名古屋に本店のある松坂屋の大阪支店だったのだ。ファサード全面を覆ったテラコッタ飾りや1階回廊のショーウインドウなど、これだけのものが竣工時のまま残っているのは珍しい。玄関欄間の草花模様など、上質なアールデコの世界がここにある。ここでは3階の高島屋史料館も見学しておきたい。そのときエレベータホールまわりの濃厚なアールデコを見ることになろう。
10.今なお“なんばの顔”として君臨「高島屋大阪店」
御堂筋突きあたりの高島屋大阪店は、大阪の建築家久野節の作品である。よく見れば、先の東別館よりあっさりしているのがわかる。コリント式の列柱とその上のフルーツバスケットや壺などは派手だが、それ以外は案外淡白だ。正面玄関上の羽の生えた車輪は南海電鉄のマークだそうだ。南海電鉄は高野山への路線もあるので仏教の法輪を模しているのかも知れない。
11.村野藤吾が手がけた? お笑いの聖地「吉本会館」
村野が亡くなったのが1984年だから、彼自身がこの吉本会館にどこまで関わっていたのかわからない。でも、2階の大窓の両脇に小さなテラスがあること、その手すりが独特のデザインであることなど、随所に村野カラーが出ている。タイルの斜め貼りを右上がりと右下がりとを交互に繰り返すので、じっと見ていると壁が膨らんでいるように見える。斜め貼りを45度から少し傾けることでこの効果を出している。前代未聞の錯視貼りである。
12.巨大なモザイクタイル壁画ビル
道頓堀川沿いのコムラード・ドウトンビルは、道頓堀筋側の外壁を大きなタイル壁画で飾っている。村野藤吾は、名古屋の丸栄百貨店(1953年竣工、2018年解体)で大きなタイル壁画を作ったが、ここはそれよりも大きい。タイル壁画やタイルの飾り貼りは村野作品の見どころのひとつだ。さて、これが何を表しているのか謎である。かつて町歩きの仲間が、三角形と円の模様映写機ではないかと言っていた。道頓堀筋は映画館街でもあったから、さもありなんである。
13.「道頓堀の顔」だった
ルート最後の大阪松竹座は、もう外壁しか残っていないが、案外単純なのがわかる。木村得三郎にせよ久野節にせよ、鈴木禎二のような濃厚なデザインは好まなかったようだ。ここの劇場は客席が横に長く舞台が見えにくかった。3階席も高すぎてやはり舞台がよく見えなかった。ここは西洋風の劇場としてではなく、芝居小屋の桟敷として設計されていたのだ。江戸時代のここは道頓堀に面した劇場街で、観客も役者も船でやってくる。サーカス小屋のようなむしろ張りの仮設テントの並んだワンダーランドだったのだ。だからこそ、この大きなアーチは道頓堀を向いている。
円満字 洋介 建築家
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