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200万人近くの高齢者が患っている〈うつ病〉…「歳のせい」と放置することで起こる、“最も悲惨な事態”【医師・和田秀樹氏が警鐘】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年6月10日 7時0分

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(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢者の約5%が抱えているという「老人性うつ病」は、加齢や認知症と混同されやすく、発見が遅れやすいとされています。和田秀樹氏の著書『65歳からおとずれる 老人性うつの壁』(KADOKAWA)より、どういった理由から「老人性うつ病」の諸症状が見逃されてしまうのかについて見ていきましょう。

「歳のせい」が見逃される原因に

高齢者のうつ病というのは「見落とされやすい病気」だと私は実感しています。なぜなら、高齢者の約5%がうつ病だといわれていますが、それほど多くの人が医者にかかっているとは、とても思えないからです。

うつ病が疑われる人に対して、われわれ精神科医が真っ先に確認することは、食欲と睡眠です。若い人、あるいは中高年の人であれば、「食欲が落ちてやせてきた」「夜眠れない」といった場合、うつ病を疑われることが増えてきました。

特に、同じ不眠でも、朝早く目が覚める「早朝覚醒」や、夜に何度も目が覚めて寝た気がしないという「熟眠障害」があれば、真っ先にうつ病を疑います。ところが、高齢者の場合、食が細くなったり、夜中に何度も目が覚めるようになっても「歳のせいだろう」と片付けられてしまうことが多いのです。

意欲がなくなり、一日中ぼんやりテレビを見ているような状態になっても、やはり「歳のせいだから」ということになりやすいでしょう。配偶者を亡くして何年も経ってから、「(亡くなった)夫のところに行きたい」などと言うようになっても、これをうつ病のサインとは考えない人が多いようです。あるいは、「生きるのに疲れてきた」と言うようになっても「歳のせいだ」と納得されてしまいがちです。

「身体のあちこちが痛い」「最近、体調が悪い」「ため息をつくことが多い」といった身体的な症状が多くなっても、外から見てまあまあ動けていて、家事などができていれば、やはりうつ病の症状とは思われにくいようです。高齢者のうつ病の場合、精神的な症状よりも身体的な訴えのほうが目立つことも、見落とされやすい原因です。

高齢者でなくても、うつ病を抱えている患者の約3分の2は、「身体がだるい」などの身体的な症状を主な訴えとして、初診の段階で内科を受診しているという統計があります。内科医がうつ病を疑ってくれれば、精神科や心療内科につないでくれますが、高齢者の場合、他の精神的なうつ症状が目立たず、身体的な訴えばかりというケースも。すると、内科で中途半端な治療を受けることになってしまう例も珍しくありません。身体がだるいのも、頭痛がするのも、「歳のせい」で片付けられやすいのです。

うつ病による「能力や気力の低下」は気づかれにくい

とりたてて仕事や役割がない、日常生活にそれほど高い能力が必要とされる機会がないといったことも、うつ病が見落とされる原因になります。主婦の場合、多少雑になっても掃除や洗濯などの日常的な家事ができていれば、うつ病を疑われることはまずないでしょう。食卓に並ぶおかずの品目が減ったり、スーパーで買ってきた総菜が増えて自分で作る料理が減っても、うつ病というより、やはり「歳のせいだ」と思われがちです。あるいは、「単身だから」とか「老夫婦だから仕方がない」と、思われるかもしれません。

会社に勤めていれば、能力が落ちてきて、経理や営業など、それまでできていた仕事が明らかにできなくなったということであれば、周囲がうつ病を疑うこともあるでしょう。いまの時代、従業員が50人以上の会社では、毎年1回、ストレスチェックが義務付けられています。

「職場環境が悪くないか」「ストレスの徴候が出ていないか」のチェックが行われることで、うつ病になりかけている人や、なっているのに見過ごされている人が見つけやすくなり、医療へとつながることも増えています。しかし、高齢者が単身、あるいは夫婦で暮らしている限りは、うつ病になっても、せいぜい外出が減るくらいで、一般的な日常生活はできてしまうので、病気であることが発覚しないケースがあります。

高齢者は会社に勤めていた頃のように、肉体的にきつい作業があるわけでもないし、人間関係にも気を遣わなくていいだろうと思われているので、「ストレスなんかない」と思われがちです。そのせいで、元気がなくなっても、ストレス性のものとか、うつ病の始まりかもとは思われず「歳のせい」で片付けられることが多いのです。

高齢者へのイメージや独居が発見を遅らせる

最近の高齢者は、昔と違って栄養状態が良くなっています。しかも、若い頃からのライフスタイルも、日本が豊かな国といわれるようになってからの世代ですから、いまの80歳の人は昔の80歳の人より、心身ともに明らかに若いのです。それでも、そのくらいの年齢でヨボヨボと弱ってくると、やはり「80歳だから」と片付けられがちです。

例えば、それまで元気だった80歳の女性が、ヨボヨボしてきてしわが目立つようになり、化粧にもおしゃれにも興味を示さなくなります。すると周囲は、「80歳だから仕方ないね」とか、「これが“80歳の壁”というものか」(このネーミングには私にも責任があるが)と、納得する人が多いかもしれません。こういったケースの場合、実はうつ病を発症していることが結構多いものなのにです。このように、世間の高齢者へのイメージのために、つまり、それが古いイメージのままであることが、うつ病の発見を遅らせることもあります。

さらに、一人暮らしの人が多いことも、うつ病の発見を遅らせることになります。現在、高齢者世帯の約半数が独居で、その数は約672万人と推計されています。その約5%がうつ病だとすると、それだけでもかなりの数のうつ病患者が見過ごされている可能性があることになります。

一人で暮らしていると、表情が暗くなったり、着替えをしなくなったり、食欲が落ちたりしても、それらに気づいてくれる人がいません。久しぶりに訪ねてきた親族が、変わり果てた姿に驚いて医者に連れて行ったり、最悪の場合、自殺してからうつ病だったことに気づかれるという例も少なくないのです。

孤独死というのは、多くの場合、これまで元気だった独居の高齢者が心筋梗塞などで急死するケースが多く、世間が考えるほど悲惨なものではありません。むしろ、ピンピンコロリに近いことが多いものです。しかし、独居の高齢者がうつ病で苦しんだあげく、最後は自殺で亡くなるというのは、最も悲惨な孤独死といえるかもしれません。

いずれにせよ、このような形で見過ごされているうつ病が、とても多いのは確かです。前述のように、高齢者の約5%がうつ病だとすれば、200万人近くの高齢者がうつ病を患っているわけですが、おそらくその1割も、医者にかかっていないというのが事実なのです。

和田 秀樹 精神科医 ヒデキ・ワダ・インスティテュート 代表

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