日本の誇り、大谷翔平…「神」になった大谷翔平とどうしても「アメリカでの評価」が気になってしまう日本人【大谷翔平の社会学】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年5月22日 11時15分
![日本の誇り、大谷翔平…「神」になった大谷翔平とどうしても「アメリカでの評価」が気になってしまう日本人【大谷翔平の社会学】](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/goldonline/goldonline_60115_0-small.jpg)
(※写真はイメージです/PIXTA)
今やその名前を知らない人はほとんどいない、日本中…いや全米も熱中するアスリート・大谷翔平。『大谷翔平の社会学』(扶桑社)の著者・内野宗治氏によると、大谷の人気にさらに拍車がかかったのはアメリカでプレーするようになってからと言います。同書から一部抜粋し、大谷がメディアで報道されるたびに「神」となったプロセスについて論じます。
「アメリカでの評価」を伝える日本メディア
大谷は日本にいる頃からスーパースターではあったが、そのステイタスがさらに一段も二段も高まったのはやはり、アメリカでプレーするようになってからだ。
大谷が日本だけでなく世界で、というかアメリカで認められたという事実は大きい。極東の島国に暮らす「辺境人」である僕ら日本人は、昔から中国や欧米などその時々で「世界の中心」だった場所の文化、習慣を取り入れながら生活してきた。常に外来の文化や習慣を参照し、それを独自にカスタマイズしてきた僕ら日本人は、自分たち自身でこしらえた価値判断のモノサシに絶対的な自信を持てず、常に「他者の評価」を気にしてしまうという性がある。今日では、とくに欧米という「世界の中心」の評価を。
大谷が23歳で渡米し、MLBで活躍してアメリカで評価されて初めて、僕ら日本人は「大谷は本当にすごいのだ!」という確信を得た。日本メディアの報道を見ると、たとえば「MLB公式サイトが大谷を特集」「ニューヨーク・タイムズの記者が大谷を絶賛」「対戦相手の監督が大谷に脱帽」といった類いの見出しで溢れている。「大谷はアメリカでこれだけ注目されていますよ!」「アメリカでも高く評価されていますよ!」ということを伝えているのである。大事なのは自分たち日本人の評価ではなく、アメリカ人がどう評価しているのか、なのだ。もっとも、アメリカ人のコメントにはお世辞やリップサービスが多分に含まれている場合もあるので、多少割り引く必要はあるのだが……。
とはいえ、大谷フィーバーは何も日本だけでのことではなく、アメリカでも今や大谷は押しも押されもせぬ「MLBの顔」であることは確かだ。
2022年、ニューヨークの中心地であるタイムズ・スクエアには、大谷がパッケージの表紙を飾った野球ゲーム「MLB THE SHOW」の巨大広告が登場。大谷は『GQ』や『TIME』といった名だたる雑誌の表紙を飾り、2021年にはTIMEが選ぶ「世界で最も影響力のある100人」にも名を連ねた。2023年のWBCに出場したチェコ代表の選手たちは大会前に「対戦を楽しみにしている選手は誰か?」と聞かれ、全員が“Shohei Ohtani”と答えた。同年のMLBオールスターゲームのファン投票で、大谷はリーグ最多の得票数だった(日本からの投票も含まれているが)。そして同年12月、大谷はロサンゼルス・ドジャースと10年総額7億ドル(約1,015億円)という「スポーツ史上最高額」で契約を結んだ。
野球はサッカーほど世界的に普及しているスポーツではなく、野球が盛んな地域は主に北米と中南米の一部、そして東アジアに限定される。しかし、その限られた野球界において大谷は、今や世界の誰もが知る正真正銘のグローバルスターなのだ。
「大谷教」の信者たち
大谷が投手として15勝、打者として34本塁打という超人的な活躍を見せた2022年、日本球界では東京ヤクルトスワローズの若き主砲、村上宗隆が王貞治の記録を超えるシーズン56本塁打を放った。日本プロ野球(NPB)史上最年少で三冠王に輝いた村上は、その神がかり的な打棒を称えるファンやメディアに「村神様」と呼ばれた。はるか昔から「八百万の神」が存在する超多神教の国、日本では野球選手もたやすく「神」になる。
さて、日本で本塁打記録を打ち立てた村上が「神」ならば、アメリカでMVPをすでに2度、いずれも満票で受賞している大谷は「神々のなかの神」とでも言うべき存在だろう。
2018年に大谷がロサンゼルス・エンゼルスの選手としてプレーするようになってから、日本でエンゼルスの試合が毎日テレビ中継されるようになっただけでなく、本拠地のエンゼル・スタジアムまで足を運ぶ日本人が続出した。米国在住者はもちろん、日本から飛行機ではるばる訪れる人も後を絶たなかった。大谷が日本人にとって「神」だとしたら、エンゼル・スタジアムは「聖地」だった。まるでイスラム教徒がサウジアラビアのメッカに「聖地巡礼の旅」へ出かけるように、「大谷教」の信者である日本人はエンゼル・スタジアムへと足を運んだ。大谷翔平という「神」を崇拝しに……。そして2024年からはもちろん、新天地のドジャー・スタジアムが新たな「聖地」になる。
連日のように日本のテレビに映る大谷は、今や日本一の有名人だ。しかしアメリカでプレーする大谷の姿を実際に、自分自身の目で見たことがある人はどれくらいいるのだろうか? 僕を含めて多くの人は、テレビの中継映像やインターネットのニュースで大谷を見ているだけだ。メディアに映る姿を見て、大谷翔平という人間がこの世に存在していると「信じている」にすぎない。だからこそ僕らは勝手に想像を膨らませて、大谷翔平という存在に「神話性」を付与しているとも言える。
ある物語が神話性を帯びるためには、多くの人々が「共同幻想」を抱くことが条件となる。たとえば「国家」や「宗教」はいずれも共同幻想の産物だ。国家や宗教は目に見えるものではないが、それゆえに「国の成り立ち」や「信仰のはじまり」といった物語を通じて人々にその存在を信じさせる。そして今日、物語を流布するのはメディアの仕事だ。たとえば「悪の帝国ロシアと戦うウクライナ」といったシンプルでわかりやすい物語を人々に信じ込ませることによって、メディアの商売は成り立っている。「日本の誇り、大谷翔平」もそんな物語のひとつで、現在、日本で最も人気のある物語と言えよう。あるいは最も信奉者の多い神話、と言って良いかもしれない。メディアが繰り返す物語を通じて大谷は「神」になったのだ。
内野 宗治
ライター
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