“3度目の介入”はあるか?…為替のプロが注目する「円安阻止介入」と「投機筋の米ドル買い」の攻防の行方
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年5月8日 10時15分
(※画像はイメージです/PIXTA)
先週は、160円まで上昇したところから151円台まで急反落する大荒れの展開となった「米ドル/円」。今週も引き続き「円安阻止介入と投機筋の米ドル買いの攻防が最大の焦点となる」と、マネックス証券・チーフFXコンサルタントの吉田恒氏は予想します。今週の相場の展開予測を詳しくみていきましょう。
5月8日~5月14日の「FX投資戦略」ポイント
〈ポイント〉 ・先週の米ドル/円は、ついに160円まで上昇したものの、その後日本の円安阻止介入があったと見られ、一時は151円台まで急反落する大荒れの展開となった。 ・今週も介入との攻防が最大の焦点となりそう。介入への警戒により、米ドルは上値が重い小動きとなるか、第3回目の介入により米ドル急落となるか。予想レンジは150~156円中心を想定。
先週の振り返り=介入などをきっかけに160円→151円へ
先週の米ドル/円は、前週末の日銀会合後、円一段安となった流れを引き継ぎ、週明け早々に160円台まで上昇しました。ただその後間もなく、日本の通貨当局による円安阻止の介入があったとみられ、米ドル/円は大きく下落に転じました。さらに、日本時間の木曜早朝にも2度目の介入があったとみられたこと、そして金曜日に発表された米4月雇用統計が予想より弱い結果だったことから、一時は151円台まで続落となりました(図表1参照)。
上記のように、先週の米ドル/円は最大値幅が8円以上に拡大する大荒れの展開となりました。そのなかでまずは、円安阻止の為替介入について確認していきます。為替介入は、月曜日の昼過ぎに159円台から第1回目が、そして水曜日のFOMC(米連邦公開市場委員会)終了後(日本時間では木曜日早朝)に第2回目が実施されたとの見方が有力です。これについて、通貨当局は「ノーコメント」としていますが、プライス・パターンなどから介入が実施されていた可能性は高いでしょう。
これまでの日本の円安阻止介入は、2022年9~10月にかけて、3回実施されました。この3回の介入が行われた日の米ドル/円は、その日のうちに最大5円前後急落するなど、共通した特有のプライス・パターンがありました。今回も、介入が実施されたとみられた月曜日、水曜日の米ドル/円は、ともに最大5円程度の大幅下落となりました。こういったプライス・パターンをみると、介入が実施された可能性が濃厚です。
また、大規模介入の場合、日銀の資金需給見込みと大きな差額が生じることから、それを元に介入額を推計する方法が有効になっています。それによると、今回の1回目の介入は5.5兆円、2回目は3.5兆円程度との見方になるようです。
ここまで見ていくと、前回2022年の円安阻止介入パターンと基本的には同様の展開といえそうですが、今回、異例と感じさせる点があります。それは、米ドル売り介入が2回目にして、すでに前回より「米ドル安・円高」水準で実施されたとみられる点です。
例えば、2022年の場合は、1回目の介入が145円台から、そして2回目の介入は151円台から実施されたとみられています。これは1回目の介入でも米ドル高・円安が止まらなかったので、2回目の介入を実施したということで、まさに典型的な円安阻止介入といえます。
これに対して今回は、1回目の介入が159円台から実施され、2回目は157円台と、前の介入水準に達する前に、さらなる介入に動いたとみられています。これは円安阻止というより、実質的には「円高誘導」の介入ということでしょう。
このような介入手法は、基本的には介入の最終局面で行われます。例えば、2022年の場合も、2回目の介入が151円台から、そして3回目にして最後となった介入は、149円台から実施されたとみられています。
ちなみに、その前の介入局面は2011年の円高阻止で、ここでも結果的に10月31日に、米ドル=75円での米ドル買い介入で円高は終わったのですが、11月に入り、77~78円まで米ドルが反発するなかでも、米ドル買い介入は続きました。
このような介入手法には、「二番天井」「二番底」を作るといった戦略的狙いがあるのではないでしょうか。相場の転換は、今回のような米ドル/円の上昇局面では「二番天井」が目安になるのが一般的です。米ドルが下落に転じ、改めて上昇再燃となった場合でも、これまでの高値更新に至らないことで、すでに米ドルは天井を打った。つまり、米ドル高・円安の終了との見方が広がります。この「二番天井」を介入で演出するためには、前の介入水準まで米ドルが上昇する前に、米ドル売り介入に出動することになります。
すでに述べたように、このような介入手法は、これまでなら最終局面、つまり円安でも円高でも、その終了の「ダメ押し」としてとられるのが基本でした。それを、今回は2回目の介入で早速実施してきたというのは、「円安は160円で終わらせる」という、通貨当局の強い覚悟を感じさせるものと考えられます。
それでは、円安は160円で終わったのでしょうか?
今週の注目点=介入vs投機円売りの攻防
160円までの米ドル/円上昇をリードしたのは、日米金利差の「米ドル優位・円劣位」を受け、米ドル買い・円売りが圧倒的に有利な状況のなか、過去最大規模にまで拡大した投機筋の米ドル買い・円売りでした。ということは、円安が終わるためには、この投機筋の米ドル買い・円売りが一巡し、撤退に向かうことが必要と考えられます。
ところで、代表的な投機筋であるヘッジファンドの取引を反映しているCFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円売り越し(米ドル買い越し)が、2024年に入ってから2週連続で縮小、つまり、米ドル買い・円売りポジションの比較的大きな縮小に動いたケースが1度ありました。3月前半に、米ドル/円が150円から146円台まで反落した局面です(図表2参照)。
この3月前半は、米ドル/円が当時147円台後半で推移していた120日MA(移動平均線)を一時的に割り込んだ局面でした(図表3参照)。つまり、120日MAを米ドルが割り込むなかで、投機筋の米ドル買いポジションが継続して縮小したということです。120日MAは、ヘッジファンドの売買転換点の目安との見方がありますが、この3月前半の動きは、そういった見方を裏付けるものとも考えられそうです。
以上を踏まえると、円安をリードした投機筋の米ドル買い・円売りは、米ドル/円が120日MA以上で推移しているなかでは続く可能性があり、撤退が本格化するためには、少なくとも120日MAを継続的に割れる見通しが必要ではないでしょうか。ちなみに、そんな120日MAは、足下で148.7円程度です。
今週は、それほど注目度の高い米経済指標発表やイベントの予定はありません。ですので、先週の流れを引き継ぎ、「日本の円安阻止介入」と「投機筋の米ドル買い」の攻防が最大の焦点になるのではないでしょうか。
CFTC統計の投機筋の円ポジションは、引き続き大幅な米ドル買い・円売りに傾斜しているとみられることから、介入警戒でそのポジションの損益確定が広がるようであれば、米ドル/円の上値は重くなりそうです。仮に、米ドル買いが再燃した場合、155円前後で、3回目の米ドル売り介入の出動の可能性があるため、これまでのプライス・パターンを参考にすると、5円前後の米ドル反落の可能性も出てくるでしょう。以上を踏まえ、今週の米ドル/円は150~156円のレンジで予想します。
吉田 恒
マネックス証券
チーフ・FXコンサルタント兼マネックス・ユニバーシティFX学長
※本連載に記載された情報に関しては万全を期していますが、内容を保証するものではありません。また、本連載の内容は筆者の個人的な見解を示したものであり、筆者が所属する機関、組織、グループ等の意見を反映したものではありません。本連載の情報を利用した結果による損害、損失についても、筆者ならびに本連載制作関係者は一切の責任を負いません。投資の判断はご自身の責任でお願いいたします。
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