65歳、年金月額17万円「年金繰り下げ、頑張るぞ!」と意気込む夫、74歳で急逝→年金増額を夢見ていた妻、〈遺族年金〉の現実に絶句
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年5月8日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
年金額の少なさを懸念し、新NISA等の資産運用はもちろん、パート就労や独立開業など、あらゆる手段を模索している日本のシニア。そして、将来の年金額そのものを増額する強力な手段のひとつに「年金の繰下げ受給」があるが、状況によっては、納得しかねる着地になるケースもあるようだ。実情を見ていく。
「年金の繰下げ制度」にときめくシニア、多数
日本の年金受給は原則65歳からで、65歳に達すると、年金を請求する権利(受給権)が発生する。65歳の誕生日の3ヵ月前に、日本年金機構から「緑の封筒」に入った「老齢年金請求書(事前送付用)」が送付されるが、これに必要事項を記入のうえ、受給開始年齢の誕生日の前日以降、添付書類とともに年金事務所に提出すれば手続きが完了となる。
しかし、多くのシニアが嘆いている通り、老後は安泰といえるほどの年金額を受給している人はごくわずか。年金受給の金額に達したシニアでも、自分がさらに年齢を重ねたときを懸念し、節約に努め、老体に鞭を打って仕事を継続しているのが現状だ。
近年、年金を増やすテクニックとして周知されてきたものに「年金の繰下げ制度」がある。これは、老齢基礎(厚生)年金を65歳では受け取らず、66~75歳までの間で繰下げて増額した年金を受け取ることができるというものだ。増額された年金は一生変わらず、また、老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰下げることもできるなど、融通の利く制度設定となっている。
気になる増額率だが、1ヵ月遅らせるごとに0.7%増え、70歳まで繰下げると50.4%増、75歳まで繰下げると84.0%増となる。つまり、65歳で受け取る額より、最大約2倍も増額できるのである。
「これはいいシステムだ!」
概要を聞いて、そのように思うシニアも少なくない。
「もらえるものは、できるだけ大きくしてからもらおう!」
長年の勤務先を60代で定年退職したのち、65歳まで嘱託社員として勤務。ここまではよくある働き方のパターンだが、そこから年金受給の先送りをしたとしよう。
繰下げ受給を希望する人は、66歳以後、繰下げ受給を希望する時期に手続きを行えばよく、手続きを行った時点で繰下げ増額率が確定する。
あるご家庭では、65歳でもらえる年金が、夫=月額17万円程度、妻=月額8万円となり、夫婦でおよそ25万円。妻は65歳から受給したが、同い年の夫は仕事を続け、その間は繰下げ受給した。
年金の繰下げで増えていく受取額…「大変お得」なのは事実だが
繰下げ受給によって、具体的にどの程度増額されるのかは、下記の数字て確認してみてほしい。
66歳…8.4%増
67歳…16.8%増
68歳…25.2%増
69歳…33.6%増
70歳…42.0%増
71歳…50.4%増
72歳…58.8%増
73歳…67.2%増
74歳…75.6%増
75歳…84.0%増
これを見る限り「大変お得だ」と考え、思わず繰下げ受給を決意してしまう人もいるだろうが、縁起でもない話、年金の繰下げ待機中に亡くなったら、どうなるか?
遺族は、65歳から亡くなるまでに受け取れるはずだった年金を「未支給年金」として請求できるが、年金額は65歳から亡くなるまでの繰下げ期間は加味されず、65歳時点の金額で確定だ。そして、注意してほしいのは、受給権には5年という時効がある点である。もし74歳0ヵ月で亡くなった場合、69歳0ヵ月より前の年金は権利が失効する可能性があるのだ。
さらに、厚生年金がもらえるはずだった夫が亡くなれば、遺族は遺族厚生年金をもらえる可能性があるが、その年金額は死亡した人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3である。
65歳で受け取れる年金が月17万円とした、上述のモデルケースの場合、厚生年金部分は月10.2万円で、遺族年金は月7.65万円。74歳0ヵ月まで年金を繰下げたら、年金は月29.92万円で、そこで亡くなったら、遺族厚生年金は13.4万円近くになる計算だが、実際に受け取れる遺族年金は、65歳時の年金額に対して計算されたもの。したがって、7.65万円になる。
さらにモデルケースでは、妻は月1万2,000円の老齢厚生年金を手にしている。65歳以上で遺族厚生年金と老齢厚生年金を受ける権利がある人の場合、老齢厚生年金は全額支給、遺族厚生年金は老齢厚生年金に相当する額の支給が停止に。最終的に妻が受け取れる遺族年金はさらに減額され、月6.45万円ほどになる。これでは、残された妻も思わず絶句するに違いない。
年金の繰下げ受給は、健康で長生きできる人の場合、確実に年金受取額を増やるが、モデルケースであげたように「頑張りが報われない結果」になる可能性があるのを忘れてはならない。増額に惑わされることなく、しっかりと検討することが大切だ。
[参考資料]
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