50代が陥る「メンタルの危機」に要注意…「この不調は年齢のせい」と自分をごまかしてはいけないワケ【有名医師が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年5月25日 8時0分
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身体の調子がよければ「健康」と言えるのでしょうか? 検査結果の正常値といった単にフィジカルが満たされたということだけでなく、メンタルとソーシャルが満たされていると本人自身が感じられなければ「健康」とは言えないのです。本記事では、『50歳からの脳老化を防ぐ 脱マンネリ思考』(マガジンハウス)の著者で医師の和田秀樹氏が、50代が迎える<メンタルの危機>について解説します。
50代が迎えるメンタルの危機とは?
WHO(世界保健機関)の「健康」の定義はこうなります。「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態であることをいいます」(公益社団法人日本WHO協会・訳)。
わたしもこの定義には同感します。検査の結果が正常というのはただ単にフィジカルが満たされたというだけで、それによってメンタルとソーシャルが満たされなくなったら健康とは言えないからです。
そもそも肉体的な健康にしても、たった一つの臓器だけでなくさまざまな角度から見なければいけないのです。「こっちには良くてもあっちには悪い」ということがしばしば起こります。
フィジカル、メンタル、ソーシャルの関係も同じです。まして数値で計れないメンタルやソーシャルは主観的なものです。本人が幸せだとか楽しいと思えばそれでいいことになります。
たとえば交友関係にしても、ごく親しい人間とだけつき合って満足している人もいるし、人間関係が狭いことを「友人がいない」とか「人望がない」と気にする人もいます。これもバカバカしい話で、「わたしはいまがいちばん気楽で伸び伸びできる」と満足していればそれでいいはずです。
つまり自分が健康かどうかは主観的であっていいし、自分が決めればいいことなのです。医者や周囲の言説に振り回されて不安になるのがいちばんバカバカしいことになります。
逆に言えば、たとえ数値が正常でも、気分の落ち込みが長く続いたり、人と会うのが億劫になって外出の機会がめっきり少なくなっていることに気がついたら、メンタルやソーシャルの健康を疑ってみるべきでしょう。
まして50代というのは、男性でも女性でもいわゆる「更年期」を迎える時期になります。簡単に説明すれば、男性は男性ホルモン、女性は女性ホルモンが減ることで中性化し、老年期に入ります。
「更年期障害」という言葉は聞いたことがあると思います。ホルモンバランスが変わることでさまざまな障害が出てくる症状のことですが、それ自体は個人差があって誰にでも更年期障害が起こるわけではありませんが、ホルモンバランスの変化、つまり更年期そのものは誰にでも訪れます。
加えて、40代からは前頭葉の老化が始まります。それがもたらすのは意欲の低下や感情コントロールの低下です。無気力になって、怒りを制御できなくなったり不機嫌を抱え込むようになります。
そしてもうひとつ、「幸せホルモン」とも呼ばれるセロトニンという神経伝達物質が減ってきます。セロトニンは脳内で分泌されることで幸福感や心の安定感を生み出しますから、メンタルの健康にとって重要なホルモンということになります。
つまり更年期というのは、ただ単に男らしさ、女らしさが失われて中性化するだけでなく、メンタルな面での大きな転機、はっきり言って危機を迎える時期でもあるのです。
その結果、どうなるでしょうか。令和3年の年齢階級別自殺者数をみると、もっとも多いのが50代で、わずかの差で40代が続きます。さらには「うつ病・躁うつ病」の年齢別患者数を見ていくと(こちらは2020年10月のデータ)男性はやはり50代がいちばん多く、女性は40代になっています。
いずれにして40代50代の男女にうつ病が多いのです。ただしこのうつ病患者の多さには社会的・環境的要因も含まれているはずです。
男性の場合でしたら職場で重い責任を負わされたり人間関係のプレッシャーなどがあり、女性の場合も子どもが自立したことで母親の役割が終わって寂しさが生まれたり親の介護が始まることなども考えられます。働いている女性には当然、男性と同じプレッシャーがかかってきます。
メンタルを改善する直接的な治療法がある
ではどうすればいいのか。ものすごく単純な答えを出せば、ホルモンバランスの変化が、男性は男性ホルモン(テストステロン)の減少、女性は女性ホルモン(エストロゲン)の減少によって起こるならそれを補充すればいいことになります。
男性ホルモンは加齢だけでなくストレスによっても減少することがわかっています。50代の男性が仕事や職場で強いストレスを受けるとそれだけで男性ホルモンは減少し、それによってストレス耐性が弱まればさらに男性ホルモンが減っていくという悪循環を起こします。
「何となくやる気が出ない」とか「疲れが取れない」といった自覚を「齢のせいだろう」とごまかし続けてしまうと、ほんとうのうつ病にもなりかねないのです。
ホルモン補充療法は欧米では抵抗なく受け入れられていますが、日本ではまだ、あまり一般的ではありません。これはわたしの感覚ですが、どうも日本人というのは病気でもないのにマイナス面を物理的な方法で補うという処置に抵抗を感じるような気がします。
たとえば美容整形とかカツラをつけるといったことでも、そういうのは「反則だ」という意識があるようです。「あるがままを受け入れよう」という発想です。
でも髪の毛の薄いことに悩んでいる人がカツラをつけてしまえば、悩みは消えるはずです。ところが身近な人にはすぐにバレてしまいます。すると恥ずかしいのです。「そこまでやるのか」「かえって不自然だ」といった陰口が聞こえてくるからです。
でもホルモン補充療法というのは、うつ病のような心の病にも非常に効果的な方法だということがわかっています。実際、一般的なうつ病の治療では効果が見られない人にホルモン補充療法を行うと目に見えて改善する例が多いのです。
現在の日本では、主に泌尿器科や男性更年期外来でこの治療法を受けることができますが、対応できる医療機関はまだ限られていますから下調べが必要です。「いざとなったら」という気持ちで頭に留め置いてください。
和田 秀樹 精神科医
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