ASEAN諸国の成長に取り残される「タイ経済」…インドネシア、マレーシアとの差が拡大する理由
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年6月11日 8時30分
Thai PBS Worldより
タイの公共放送局『Thai Public Broadcasting Service』(Thai PBS)が運営する英語ニュース・サイト『Thai PBS World』より翻訳・編集してお伝えする。
タイ経済は低迷
タイの長引く政治危機と過去数十年にわたる経済運営のまずさが、国の成長に大きな打撃を与えている。
タイ国営シンクタンクの国家経済社会開発評議会によると、タイ経済は昨年第4四半期に1.7%、2023年通年では1.9%拡大した後、今年第1四半期はわずか1.5%の成長率にとどまった。
同国は1997年の金融危機以来、数十年にわたって低成長に悩まされてきた。
透明性なき予算運用のリスク
今年の経済停滞の主な原因のひとつは、2024年度予算の国会通過が遅れたために、支出にタイムラグが生じ、公共支出が減少したことである。
2023年5月の総選挙後、どの政党も十分な支持を得られず、政治が行き詰まり、連立政権の形成が遅れた。前進党(タイの社会民主主義の政党)は下院で最多の議席を獲得したが、2006年と2014年の軍事クーデター以来、政治の主要な勢力となっていた既存のエリート層によって連立権限を阻まれた。
批評家たちは、ディープ・ステート(深層国家)がこの国を実質的に支配しており、それが経済運営、特に予算配分方法に影響を与えていると非難している。国民や野党も、防衛省や関連組織への予算配分に関しては抗議することができても、ほとんど何も変えられない状況だ。
さらに、物議を醸している不敬罪のせいで、政治家や学者は、君主制の機関を支援する予算がどのように配分されているかを積極的にチェックすることができない。刑法第112条と司法制度は、この基本的権利が憲法に明記されているにもかかわらず、表現の自由は抑制していると非難されている。
予算配分における透明性の欠如とは別に、資本支出を犠牲にして経常支出(国家公務員の給与、医療保険、年金基金など)を膨らませているという構造的な問題もある。資本支出は年々圧迫され、総支出のわずか20%程度に過ぎない。
多くの経済学者は、1997年以降のアジア金融危機における官民両部門の投資の低迷が、長期にわたる経済成長の停滞の原因であると非難している。
サイアム商業銀行(SCB)傘下である経済情報センターのチーフ・エコノミスト、ソンプラウィン・マンプラサート氏は、「民間部門の明らかな弱点の1つは、中小企業の数が97%であるにもかかわらず、それらの合計収益はわずか10%強に過ぎず、収益は減少傾向にあることだ」と指摘する。対照的に、全体の3%である大企業の合計売上高は80%を超えている。
同氏はまた、起業家は複数の省庁や政府部門にライセンスを求めなければならないため、お役所仕事が起業のコストを高くしているという問題も提起した。
タイの外国人投資家もまた、世界のサプライチェーンやテクノロジーの急速な変化に直面している。一部の多国籍企業は自社製品が市場で時代遅れになったために倒産しており、これもタイの輸出に影響を及ぼしているとソンプラウィン氏は述べた。
自動車競争に取り残される
その一例が、自動車産業が直面している不安である。タイはかつて 「アジアのデトロイト」と呼ばれていたが、最近その自動車市場はマレーシアに追い抜かれている。
日経アジアによると、マレーシアの自動車販売台数は今年第1四半期まで3四半期連続でタイを抜いている。インドネシアがASEAN最大の市場となったため、タイの順位は3位に落ちた。タイの自動車市場の落ち込みは、経済成長の鈍化と家計負債の高止まりが主な原因である。
タイの家計負債はGDPの91%にまで上昇した。タイが経済成長の鈍化に苦しんでいる一方で、他のASEAN諸国は好調を維持している。
アセアン最大の経済大国インドネシアは、2023年に5%成長した後、今年第1四半期は5.1%成長した。マレーシアは第1四半期に4.2%成長し、2023年には3.6%成長。フィリピンは今年第1四半期に5.7%、昨年は5.5%、ベトナムはそれぞれ5.7%、5%成長した。
マレーシア、そしてベトナムは、半導体などのハイテク投資の誘致に成功している。インドネシアはバッテリーや電気自動車に不可欠なニッケルの埋蔵量が豊富である。
タイは中国のEVメーカーから海外直接投資を誘致できるかもしれないが、多くの評論家は、中国が独自のサプライチェーンを持ち込むため、タイは中国の投資からはあまり恩恵を受けないのではないかと懸念している。
しかし、一部の評論家は、米国が中国製の電気自動車に100%の関税を課すことを決定したことで、タイがEV製造拠点としてより魅力的になる可能性があると推測している。
タイ電気自動車協会のクリスダ・ウタモテ会長は、「自動車部品の製造に携わる地元企業は中国からの投資で利益を得ることができると考えているが、米国市場に参入する中国車に高関税を課すという米中貿易摩擦により、タイが利益を得られるかどうかはわからない」と述べた。
低迷する経済を浮揚させるため、過去も現在も政府は他のASEAN諸国に追いつくべく、新たなS字カーブ産業を推進しようとしているが、その結果はまだ分からない。
文=Thai PBS World ビジネスデスク
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