「番組を干される!」…作家・阿川佐和子氏が覚悟した、テレビ局の「偉い人」を怒らせた“絶対に言ってはいけない一言”
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年6月16日 10時0分
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場の空気に合わせて発言のタイミングや内容を考えることは、コミュニケーションで重視されるポイントです。作家の阿川 佐和子氏は、空気の読めない「KY」だったを自身について語っています。阿川氏の著書『話す力 心をつかむ44のヒント』(文藝春秋)より、空気を読むこととコミュニケーション能力について、詳しくみていきましょう。
就活で求められる「コミュニケーション能力」
コミュニケーション能力って何?
一時期、場の空気を読まない人のことを「KY」と呼んでいました。そして「KY」という存在はまことに厄介で面倒な存在と疎うとんじられていた記憶があります。しかし同時に世の中では「コミュニケーション能力」というものを必要以上に重視するようになっていました。
劇作家の平田オリザさんにお会いしたとき、そんな話を伺いました。平田さんの著書『わかりあえないことから──コミュニケーション能力とは何か』(講談社現代新書)にも書かれていることですが、入社試験の面接で「君はコミュニケーション能力についてどう思いますか」とか「この会社に入ったらどんなコミュニケーション能力を発揮していこうと思っていますか」とか聞かれることが増え、そのために就職活動中の若者はこぞって「コミュニケーション能力」を身に着けようと事前に勉強しておくのだそうです。
そして若者はようやく厳しい関門をクリアし、無事に社員となり、コミュニケーション能力をさらに発揮して仕事に励もうと張り切ります。会議の席で、しっかり自分の意見を発信し、他の社員や上司の意見も耳にとどめ、円滑な関係を築こうと頑張ります。すると、会議が終わって部屋を出た途端、直属の上司にチクリと釘を刺されるのだそうです。
「君、上司が揃っている場で新入社員が余計なことを言うものじゃないよ。どうしてそこらへんの空気が読めないんだ?」
いや、だって、入社するときは、コミュニケーション能力を存分に発揮してくださいって、おっしゃっていたじゃないですか。若者は混乱します。いったいコミュニケーション能力とは何なんだ? できるだけ黙ってろという意味だったのか。
平田さんは、これが日本の現状であり、闇雲にコミュニケーション能力を磨けと求めたところで、現実社会においては見事な齟齬をきたしているとおっしゃっていました。なるほどねえ。積極的にしゃしゃり出る人間は、総じてKY呼ばわりされてしまうのか。だからなおさら日本人は、黙り込んでしまうのかもしれません。
たしかに「ここでそういうこと、言う?」と周囲の顰蹙を買う人はときどきいるでしょう。実際、その発言で深刻な問題が起こることも、ないわけではない。他人の気持を不用意に荒立てたり、その場の空気を壊したり。あるいは人を傷つける結果を招いたりすることさえあるかもしれません。でも、そういう失敗を怖れすぎていたら、本当に何も発言できなくなってしまいます。
重々お察しとは存じますが、そういう意味において私はKY族の一人かもしれません。なにしろ喋り過ぎる。思ったことをすぐ口に出してしまう。ここはしばらく黙っておこうという我慢に欠ける。そう、間違いなくKYです。
「それは、言ってはいけない!」と𠮟られる
かつて、テレビ局のお偉い方々と、大スポンサーである会社のお偉い方々との食事会に、なぜか私が同席しました。大スポンサーである会社のトップの方が口数は少ないながらたいそう気さくな方だったので、最初は緊張していたのですが、ワインとおいしい食事が進むうちに、和んだ気持になってきました。そんな折、大スポンサーであるその偉い方が発言なさったのです。
「あの番組に出資しているけど、どうも費用対効果があまり芳しくないんですねえ」
決してきつい言い方ではありませんでした。とぼけた様子でさりげなくおっしゃったのです。そこで私はつい、
「社長! いまどきテレビに費用対効果を求めても無駄ですよ」
私の本意としては、視聴率獲得に躍起になって商品が売れることばかりをテレビに求める時代は終わった。それよりスポンサーはテレビ番組自体をもっと面白く、番組制作をしている人たちが楽しいと思って働ける現場を作ることを考えて出資していただきたい。生意気ながらそんな気持も込めて、つい言っちゃった。たちまち、その場の空気が凍りました。テレビ局のお偉いさん二人がジロリと私を振り返り、
「それは、言ってはいけない!」
厳しい口調で制されたのです。しかも、そのあと2回も、「それは、言ってはいけない!」「それは言ってはいけない!」と繰り返されたのです。
あ、クビだな。今、この瞬間に私は干された! そう思いました。
こういうのをKYと呼びます。
幸い、なぜか番組を干されることにはなりませんでしたが、まことに心の底から反省しました。そして少し無口になりました、しばらくの間だけ。
でも、と、また言い訳がましいのですけれど、このような、明らかに上下関係がはっきりしている食事会、ないし会合、ないし会議などの席では、どうしても下の人間は寡か黙もくになり、上の人間ないしスター的存在、ないし声の大きな人の独壇場になりがちです。くだんの会食でのスポンサーの社長はむしろ寡黙な方だったので、一人で喋りまくっていらしたわけではありませんが、それでもまわりにいる同席者は、誰もがトップの動向をなにより気にして会話を進めているという空気をひしひしと感じ取りました。
どうも私は、そういう暗黙の上下関係を過度に忖度する場にいることが苦手、というか下手なので、つい空気を変えたい衝動に駆られてしまうのです。でも、犯した罪は、罪ですからね。
その節は大変に不用意な発言をして失礼いたしました。この場をお借りしてお詫びいたします。テレビ局の当時の社長様、会長様!
阿川 佐和子 作家
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