そんなに貯めこんでどうするの?定年退職したら「お金に対する考え方」を変えるべきワケ【有名精神科医が助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年5月30日 8時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
令和元年に金融庁が告げた「老後2,000万円問題」などもあり、日本のお年寄りは貯金に励む傾向にあります。ですが、お金を使わなかったために遺産問題などのトラブルが起きたり、身体が動かなくなってから「もっとぜいたくをしとけばよかった」といった後悔にかられたりするケースも少なくないといいます。今回は和田秀樹氏による著書『和田秀樹の老い方上手』(ワック)から一部抜粋して、高齢者が積極的にお金を使うべき理由について解説します。
年をとったら、これまでの考え方をいったん白紙に戻す
年をとったら、ものの考え方を少し変える必要があります。いつまでも若い頃の価値観でものを見たり、現役でバリバリ働いていた時と同じような考え方をしたりしていると、働かないことに引け目を感じたり、人の世話になるのは恥ずかしいと思ったりして、自分を苦しめることになりかねません。
ですから、定年退職を機会にマインドリセットをする。これまでの考え方をいったん白紙に戻す必要があると思います。
それまでの会社人生を振り返ってみると、上司の機嫌をとらなければいけなかったり、仕事をスムーズに運ぶためにみんなと仲良くしようと努力して、嫌われないようにうまく立ち回ったり、どんなに腹が立っても我慢したり、あるいは前の晩遅くまでお得意さんと付き合っても、絶対に遅刻せず定時に出社しなければいけないとか、いろんなことがあったのではないでしょうか。
定年退職したら、もうそんな煩わしい人間関係に気を遣わなくていい。もう細かいことは考えず、誰に遠慮も気兼ねもすることなく、自分の好きなように生きていいはずです。
それなのに、会社勤めの気分がなかなか抜けず、人目を気にするお年寄りって意外に多いんです。たとえばお年寄りのマスクですが、みんながしているからなかなか外せないという人がいます。
誤解してほしくないのは、マスクはウイルスに感染しないためにするのではなく、他人にうつさないためにするものだということです。だから、人がいないところでは堂々と外していいんです。そういうことも含めて、年をとったらとったなりの考え方に変える必要がある。
年をとるほどお金を持っていることの価値が減っていく
中でも、いちばん変えなければいけないのはお金に対する考え方です。「老後2,000万円問題」といって、令和元年に金融庁が「老後の暮らしには2,000万円の貯えが必要になる」みたいなことを言ったために、お年寄りはせっせと貯金に励むようになりました。
しかし、これは私が長いあいだ老年精神医学をやっていて気づいたことですが、年をとって歩けなくなったり、寝たきりになったり、認知症がひどくなったりすると、人間って意外にお金を使わないですむんですよ。
家のローンも払い終わったし、子供の教育費もかからない。歩けなくなったりボケたりしたら、旅行に行く気も起こらないし、高級店で食事したいともあまり思わない。だから、特別養護老人ホームに入ったところで、介護保険を使えば年金の範囲でだいたい収まるんです。
そうしたら、貯金なんかする意味がなくなるわけですよ。老後の蓄えがないからって、頑張って貯金なんかすることなかったな、と悔やむことになる。
要は年をとればとるほど、お金を持っていることの価値が減ってくるわけです。というのは、現在の法律でいくと、たとえば献身的に介護してくれた娘と、何もしないでほったらかしにしていたバカ息子がいたとしても、遺産相続は平等です。
遺言を書いたって、その内容に関係なく、遺留分といって、配偶者や子供などの法定相続人には法律で定められた遺産の取得分が最低限保障されているので、何もしてくれなかった子供も同じように遺産を相続できるわけです。
ここで大事なのは、実はお金を持っていても幸せな晩年を送れるわけではないということです。私はこれを「金持ちパラドックス」と呼んでいます。
たとえば奥さんが先に亡くなってしまい、その後、近所の小料理屋の女将と仲良くなって、再婚して晩年を共に暮らそうと決めたとします。これが財産のない家であれば、子供たちも「お父さん、よかったじゃない。幸せになってね」と祝福してくれるでしょう。介護もその女性がしてくれるだろうし、誰も反対しません。
ところが、億単位の貯金があるとか、家を売ったら少なく見積もっても2億になるとかいうことになると、「そんなの財産目当てに決まっているじゃないか。あんな女と結婚するなんて、僕たちは絶対に許さないからね!」と反対されて、結婚もままならないことだってあり得るわけです。
だから、財産を持っていたところで、逆に子供たちのいいようにされてむしろ不幸になるケースも少なくない。
仮に認知症になってしまって、子供たちに成年後見制度というのを使われてしまうと、自分で買いたいものがあっても買えなくなります。財産の処分はすべて後見人である子供が行うという制度ですから。結局、財産なんか残したところで、晩年に子供たちが大事にしてくれるとは限らない。
それから、よくある話だけど、もう家を売って高級老人ホームに入ることにしたとしましょう。その場合、老人ホームというのは原則的には所有権じゃなくて、亡くなるまでの使用権なんですね。だから、5億円の老人ホームを買っても、毎年だいたい10年償還のところが多いから、10年経ったら財産価値はゼロになるんですよ。
そうすると、相続できる遺産が5億減っちゃうわけだから、高級老人ホームに入りたいと言っても子供たちに反対されることもけっこうある。
結局、自分のために財産を残しておいたとしても、子供たちの出方によっては自由に使えず、幸せな老後を送れるとは限らないわけです。だから、年をとったら、お金というものに対しての考え方を改める必要がある。
お金を使えば自分も周囲も幸せになる
お金というものは、持っているだけではだめで、それより使うことに価値があるんです。たとえば、百貨店でブランド品を買いまくったら、フロア主任まで出てきて店員みんなで下へも置かないおもてなしをしてくれるし、子供や孫たちに金をバラまいたら、一族みんなで「おじいちゃん、おばあちゃん」って寄ってきてくれるわけですよ。
資本主義の世の中は金を持っている人間ほど偉いって勘違いされているけれど、お客様は神様というくらいで、金を使う人間のほうがよほど偉いんですよ。要するに金を使うかどうかです。死ぬまで金を貯め続けるなんて、これほどバカなことはない。
莫大な遺産があると何が起こるか、もう一つ教えましょう。子供たちが喧嘩を始めるんですよ。子供たちには奥さんがいるし、女の子なら夫がいるから話がややこしくなる。お父さんの介護をしたのは私だとか、うちはわざわざ近くに引っ越してあれこれ面倒をみていたとか、家業を継いだのは俺だとか、それぞれ主張して財産の取り合いになる。
財産さえなければ、そんなことは起こらない。だから、金なんて残さないのがいちばんです。金は使うものだというふうにマインドリセットして、みんながお金を使うようになればいいんですよ。
何よりもいいのは、そうすれば景気が良くなることです。いま、個人金融資産は日本中で2,000兆円あるんですけど、その6割以上は60歳以上が持っているんです。みんなでその金を使うようになったら、いっぺんで景気が良くなります。
でも日本のお年寄りはみんなお金を使おうとしないし、企業のほうも、どうせ金を使わないだろうと思うから、お年寄り向けの車やパソコンを開発しようとか、お年寄り向けの家を作ろうとか考えません。せいぜいバリアフリーの家を建てるくらいでしょう。
だから年をとったらお金を使いましょう。というのは、死ぬ間際に残るのは思い出しかないからです。あの時、ああすればよかったとか、こうすべきだったとか、後から悔やんでも、ある年齢以上になったらできなくなることもありますからね。
夫婦で世界一周の船の旅に出るとか、退職金でヴィンテージ・ギターやポルシェを買うとか、若い時にあこがれたものを手に入れればいいんです。会社員でポルシェを乗りまわしたりしていると何を言われるかわからないけれど、もう辞めたんですから、何か言われる筋合いはありません。
お金は持っているだけでは価値がない。使ってこそ価値があり、幸せになれるものです。年老いてから貯めこんでいても何にもなりません。使っているからこそ毎日が楽しい。金を貯めるのは不幸のもと。そう自らに言い聞かせて、ぜひ幸せな老後をお過ごしいただきたいものです。
和田 秀樹 精神科医
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