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酒、タバコ、ギャンブルがやめられないのは「意思が弱い」からではなく「病気」だから。想像以上に怖い「依存症」の実態【有名精神科医が解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年6月6日 7時30分

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(※写真はイメージです/PIXTA)

米大リーグ、ドジャースの大谷翔平選手が元通訳からおよそ27億円を搾取された事件で話題になったのが「ギャンブル依存症」の怖さです。あれほどの大金ではなくても、パチンコに通い続けてお金を溶かしてしまい、生活が破綻してしまった…といった話は昔から耳にするでしょう。お酒やタバコ、パチンコなどがやめられないのは「意志の弱さのせい」と考えがちですが、実際には治らないことも少なくない「怖い病気」だといいます。今回は和田秀樹氏による著書『和田秀樹の老い方上手』(ワック)から一部抜粋し、依存症について解説します。

世の中で一番多い心の病は「依存症」

皆さんは世の中でいちばん多い心の病、精神障害って何だと思いますか。うつ病でしょうか、統合失調症でしょうか。あるいは最近はやりの適応障害とか、トラウマによるPTSDとかいろいろありますが、いちばん多いと思われるのは……実は依存症です。

ある統計によると、アルコール依存症が国内でおよそ200万人。軽症の人を含めたら500万人という説もあります。タバコをやめられないニコチン依存症が1,400万人。それからパチンコを主としたギャンブル依存症が200万人から1,000万人いると言われています。

そして、いかにも現代的なのがインターネット依存症で、2012年の統計(当時のスマホの普及率は2割程度でした)では270万人だったのが、スマホの時代になってそれが5倍ぐらい増加したという説もあります。

少なくともスマホが手離せないという人がおそらく2,300万人いるという話もありますから、そういうスマホ依存症を含めると、なんらかの依存症の人は日本全国に最大で5,000万人ぐらいいると考えられます。

ところが厄介なのは、それらの依存症が病気とは思われていないことです。たとえばスマホが手離せなくて、手もとにないとイライラするとか、あるいは仕事中もついついスマホを見てしまう。これは我々精神科医から見れば明らかに依存症ですが、そんなの当たり前じゃないかって思っている人が多いのです。

スマホを見られないと不安になる…それも立派な依存症

でも、それが依存症かどうかは簡単に判断できる。授業中にスマホを見ていて先生に取り上げられたりするとすごくイライラするとか、スマホの画面が見られないと不安になったりするとしたら、それはもう立派な依存症です。

アルコール依存についても昔は、連続飲酒といって昼間からお酒を隠れて飲んだり、仕事中も飲まずにいられなくなったりして、「社会的廃人」と呼ばれるレベルの人を昔は依存症と診断することが多かったです。

けれど、最近のアルコール依存症の診断基準でいくと、アルコールに対する「耐性」ができてしまって以前より多い量を飲まないと酔えないとか、きょうは2合でやめておこうと決めながらついつい3、4合飲んじゃうとか、そういう依存症の診断基準にある11項目のうち2つが当てはまったら依存症とみなしましょうということになっています。

あとで説明しますけど、なんでたった2項目で依存症とみなすかっていうと、5つも6つも7つも満たすようになってからでは、治療がすごく難しくなるからなんです。つまり、まだ症状が軽いうちに治療をしないと手遅れになってしまうから、診断基準を割と厳しくする傾向にあります。

本人は気づいていなくても、実は依存症だということは意外に多いんですが、さらに周りの人たちも依存症だとは思っていないケースも多々あります。

たとえば、なかなかタバコをやめられない人がいた場合、ニコチン依存症だとは誰も思わないで、「あいつは意志が弱いよなあ、ついこのあいだやめたって言っていたのに、また吸っているよ」と、「意志が弱い」からやめられないのだと思われている。

依存症になると脳のメカニズムが変わってしまう

それから、有名な芸能人やミュージシャンが覚醒剤に手を出して逮捕されたというニュースをよく耳にしますが、初犯の場合はだいたい執行猶予がつきますから、謝罪会見を開いて、「もう二度と致しません」とか平謝りしながら、またまたつい手を出して逮捕され、テレビのワイドショーでさんざん悪く言われることがしょっちゅうあります。

そういう時、ほとんどのコメンテーターは「二度もファンを裏切るとは、なんて意志の弱いヤツだ」とか「あれだけ周りが応援してあげていたのに、残念ですね」とかといって攻撃するわけですが、私ども精神科医から見たら、覚醒剤なんて依存症になりやすい最たるもので、なかなかやめることができないものなのです。

覚醒剤を1回やっちゃうと、たとえ10年間、本当にやめていても、突然またやりたくなっちゃうことがあるくらい依存性の強い、怖い病気なわけです。だから、意志が弱いから再び手を出してしまうんじゃなくて、依存症になると脳のメカニズムが変わってしまうから再び手を出すのです。「プログラムが変わる」という人もいます。

僕ら精神科医からすると、意志が弱いのではなくて、意志が破壊される病気が依存症です。我慢する能力が破壊されるから、我慢できなくなっちゃう。我慢しようとしても、薬物を使用した時の快楽をもたらす依存性物質ドーパミンがドッと放出されるので、やめたくてもやめられない。

だから、依存状態をやめようとしない人もいるけれど、依存症とは基本的にはやめたくてもやめられない病気だと言うことができます。

スマホばかりいじっているせいで成績が下がっているのに、いつのまにかスマホを手にしているとか、あるいは今日ぐらい酒をガマンしないと、最近飲みすぎでもうフラフラだとわかっているのに、つい飲んでしまう。そういった「やめられないとまらない病」とでもいう病気です。

もう大昔のことだから若い人は知らないかもしれないけれど、植木等が歌って大ヒットした「スーダラ節」に、「わかっちゃいるけどやめられない」という歌詞がありました。まさにあの歌のとおりなんです。

ところが、いまのところまだ会社もクビにはならず、なんとか仕事を続けられてはいても、依存症の怖いところは、多くの場合どんどんエスカレートしていくことです。ついにはスマホをチラチラ見ながら運転して事故を起こしたり、勤務時間中に酒くさい息を吐いてクビになったりして、意志の弱いダメなやつだと決めつけられ、社会不適応のレッテルを貼られることになりかねない。

アルコールやパチンコの依存症に対する認識が甘い日本

日本の場合やっかいなのは、依存症を病気だと思っている人が少ないから、海外では多くの国で禁止されているお酒の広告が野放しになっていることです。ビールの缶を「プシュッ!」と開けて、おいしそうにゴクゴクっと飲んで「うまい!」とひと言。こんなものを見たらせっかくアルコールをやめているのに、ついつい飲みたくなってしまいます。

しかも日本では24時間アルコールが買える。深夜、ビールを飲みながらテレビでサッカーとか観戦していて、ふと気がつくとビールがなくなっていても、コンビニに行けばいくらでも手に入ります。確かに便利なことこのうえない。しかし、それではアルコール依存症を助長するばかりです。

海外に旅行された方はご存じだと思いますが、たいがいの国では夜11時以降はお酒を売ってくれません。TVコマーシャルに対しても日本ほど寛容な、言い換えれば甘い国はありません。いくら商売だからって、飲酒シーンの広告を四六時中流しているのは世界から見れば非常識そのものです。

禁酒しているのに、コマーシャルを見てお酒を買いに走ってしまった場合、責められるのはその人の意志の弱さだけで、依存性の高い商品を、悪魔のささやきよろしく宣伝しているメーカーはまったくお咎めなしです。

確かに覚醒剤をやったら逮捕されますよ。売り手はもっと重い罪です。だけど、お酒やパチンコ、ゲームをやめられなくたって逮捕されることはありませんから、簡単に手を出してしまう。「わかっちゃいるけどやめられない」というわけです。

でも、パチンコなんかだと、たとえ逮捕されなくたって、破産して人生を台無しにしてしまう恐れがあります。

私の知るケースでは、生活保護を受けていながら、月に17万円ほど支給されるお金を引き出すやそのままパチンコ店に駆け込んで、3日くらいで使い果たしてしまう。その後は翌月まで1カ月近くほとんど飲まず食わずです。それなのに、翌月の保護費が入ると食べ物も買わずにパチンコにつぎ込んでしまう。もう完全に本能が崩壊された状態になっているわけです。

依存症というのはそれほど怖い病気なんです。だから、パチンコの換金は禁止するとか、アルコールの宣伝・販売を制限する、少なくとも飲酒シーンは全面的に禁止すべきだと私は思います。

治療施設がほとんどない…くれぐれもご注意を

もう一点、依存症が病気であることが明確に意識されていない弊害の一つに、依存症の治療施設がほとんどないことが挙げられます。「ウチの子はスマホを10時間も手離しません。どうしたらいいでしょう」というような相談を受けると、私は「スマホを取り上げなさい」と答えます。そうすると、「取り上げると泣きわめいて手に負えません」というような話になる。

これはもう立派なスマホ依存症ですから、治療施設に入れなければどうしようもありません。それなのに日本に治療施設が無きに等しいのは、基本的に病気だと思われていないからでしょう。「意志あるところに道は開ける、精神一到何事か成らざらん」という精神論が支配しているからです。

日本では、依存症のトリガーになる恐れのある派手な広告があふれている一方で、いざ依存症になった時に頼れる治療施設がないために、一生苦しむことになりかねない。お酒の量が増えている人、スマホがないと不安で仕事中もチラ見してしまう人は、すでに依存症の一歩手前です。軽いうちならともかく、重症になると自制がきかなくなります。くれぐれもご注意ください。

ただ、残念ながら依存症というのは、治療施設があっても治せないことが少なくない怖い病気です(もちろん、医療施設がないよりあるほうがずっとましですが)。ある種の人には手を出さないことしか、予防法はありません。だから、政府がなんの規制もしないことや無責任な広告の垂れ流しに腹が立って仕方がないのです。

和田 秀樹

精神科医

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