再逮捕・追送検・追起訴・拘留…ニュースで目にするが実はよく知らない「逮捕」にまつわるエトセトラ【事件に詳しい元新聞記者が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年5月27日 7時0分
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容疑者を逮捕した、さらには再逮捕、追送検、追起訴…といった内容のニュースが毎日のように私たちの耳に入ってきますが、それぞれなぜ行われるのか、どう違うのかをはっきり理解している人は少ないのではないでしょうか。逮捕などをされた後に刑事施設に収監される「拘留」についても同様でしょう。そこで本記事では、『三度のメシより事件が好きな元新聞記者が教える 事件報道の裏側』(東洋経済新報社)より、著者の三枝玄太郎氏がこれらの情報について解説します。
再逮捕と追送検、追起訴の違いって?
逮捕の形の1つに「再逮捕」があります。「県警は殺人容疑で○○容疑者を再逮捕した」というニュースは皆さんもよく目にすると思います。
これと似たようなパターンで、同じ〇〇被告という人物について「追送検した」「追起訴した」と報じられることがあります。普通は、「ふーん、もう1回逮捕されたり、送検されたりしたのね」とスルーしてしまうのではないでしょうか。
容疑者は逮捕されると48時間以内に検察官に身柄を送られます。また、検察へ身柄送検されると、最大で20日間の勾留、逮捕されてからだと22日間の身柄拘束が認められています。
この22日が満了しても、別に余罪がある場合に再逮捕されることがあります。再逮捕されると今度は48時間以内に追送検されるかが決まり、さらに22日の勾留が認められます。起訴に足りると判断されれば、追起訴されます。再逮捕なしで追起訴というケースもあります。
典型的なのは、たとえば殺人事件で容疑者が遺体をどこかに埋めたケースです。この場合、たいてい最初に逮捕される容疑は死体遺棄容疑というのが相場です。殺人罪の成立には殺意の立証が必要ですし、法定刑も死刑、無期または5年以上の懲役と非常に重罪です。いきなり殺人容疑で逮捕するのは、捜査関係者もためらいがあるのかもしれません。
その点、死体遺棄容疑は簡単といってはなんですが、遺体さえ見つかってしまえば、遺体を遺棄したことの立証は容易です。ですからまずは死体遺棄容疑で逮捕し、22日間の拘束期間中に殺人事件についても並行して捜査して再逮捕すれば、22日+22日で44日間、取り調べの時間を確保できます。
一度に殺人、死体遺棄の二つの容疑で逮捕したという事件は、私は記憶にありません。死体遺棄容疑で逮捕→送検→死体遺棄罪で起訴→殺人容疑で再逮捕→追送検→殺人罪で追起訴、が定番です。
ちなみに追起訴中にさらに余罪が出てきたら、もう一度再逮捕し、追送検→追起訴……を繰り返すことになります。理論上は10回でも100回でも再逮捕しても構いません。ただ、22日×100回=2,200日も勾留するのは物理的に不可能ですし、人権上ありえないでしょう。だいたいは2〜3回、多くても5回くらいという印象です。
殺人・死体遺棄と同じようなプロセスをたどるのが、競争入札に関わる贈収賄事件です。それも役所の人間や政治家を逮捕する際に多いのが、競売入札妨害容疑で逮捕→送検→競売入札妨害罪で起訴→収賄容疑で再逮捕→追送検→収賄罪で追起訴、というパターンです。
贈収賄事件は大まかに二つに分けられます。一つは、談合が繰り返されており、そのボス役が有力な市町村長や議員らにワイロを渡しているケースです。もう一つは同じ談合でも、自分だけがその工事を落札したくて、役所の人間や有力議員らにワイロを渡し、予定価格を聞き出すというものです。いわゆる「談合破り」のケースです。
前者は落札価格が予定価格に近接し、後者ならば1社だけが異様に低い価格を提示して落札することが多くなります。
私はどちらのケースも取材したことがありますが、競売入札妨害で先に逮捕されるのは、一つめのケースです。捜査関係者側としては、「もし贈収賄事件として立件できなかった場合でも、最悪、競売入札妨害罪だけで起訴しよう」という肚があります。
長期勾留をめぐる〝大失態〞
さて、22日にせよ、44日にせよそれ以上にせよ、勾留期間中に起訴が決まったとしましょう。あとは裁判所で決着を待つだけですから、それ以上勾留される必要は本来ないはずです。それなのに多くの事件では、起訴されたあとも勾留が続くことがあります。
もしそうなっても、通常は被告人や弁護人などの保釈請求によって、一時的に釈放されます。ただし例外があり、殺人事件のような重大事件や、余罪が多数ある窃盗事件などは、ほとんど保釈は認められません。逮捕と同様に証拠隠滅のおそれがある場合も認められません。
2002年6月に東京地検特捜部にあっせん収賄容疑で逮捕された鈴木宗男衆院議員の身柄拘束は、437日という異例の長期間に及びました。
このときは、「人質司法」「国策捜査」との批判が起こり、保釈を認めない裁判所や勾留を続ける検察庁を弁護側が激しく批判しました。結局、鈴木氏は懲役2年、追徴金1,100万円の実刑判決が確定しましたが、この数年後に決定的な失態が起きてしまいます。
2009年の村木事件です。大阪地検特捜部が村木厚子・厚生労働省雇用均等・児童家庭局長(当時)を逮捕した郵便不正事件で、ご記憶の方も多いでしょう。
事件は村木氏が社会・援護局障害保健福祉部企画課長時に、自称障害者団体に偽の障害者団体証明書を発行し、不正に郵便料金を安く発送させたとして逮捕されたというものです。虚偽公文書作成・同行使容疑というそれほど重い罪ではなかったにもかかわらず、身柄拘束は164日に及び、起訴後も勾留が続きました。
逮捕状の請求のときと同じで、検察での勾留延長には裁判所の許可が必要です。このとき、場合によっては、被疑者は「勾留理由開示請求」という伝家の宝刀を抜けることもあります。公開の法廷で、自分が勾留されている正当な理由は何かを裁判官から説明してもらう制度です。
あまりありませんが、過激派のメンバーが捕まったりすると開かれることがあります。傍聴したことがありますが、弁護人「この逮捕は不当です。被告を釈放しなさい」、裁判官「裁判所は勾留理由を開示する場所ですから、そういう意見を言われても困ります」といった応酬が延々と続き、なかなかカオスな空間でした。
いずれにせよ、犯罪の捜査、解決には、裁判所が関与することによって、警察や検察が暴走しないようなしくみを作っているのです。
それでも、村木事件のようなことがあるのが現実です。村木事件は、大阪地検検事が証拠を改竄したことが発覚し、当時の特捜部長らが逮捕されるなど、非常に大きな冤罪事件となりました。
三枝 玄太郎
※本記事は『三度のメシより事件が好きな元新聞記者が教える 事件報道の裏側』(東洋経済新報社)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。
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