これが「皇室」のご教育…作家・阿川佐和子氏が感銘を受けた、皇室の方々の「巧みな会話術」
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年6月23日 10時0分
大人数での会話とは難しいもので、どうしてもたくさん話す人や、話題に入れない人が出てきてしまいがちです。しかし、作家の阿川佐和子氏は、皇室の方々との会食の機会があり、そこで「あること」を発見した、といいます。阿川氏の著書『話す力 心をつかむ44のヒント』(文藝春秋)より、詳しくみていきましょう。
皇室に教わる“集い”の会話術
堅苦しいというわけではありませんが、世にも緊張した会食の経験があります。
父が故あって、さる皇室の殿下と妃殿下をレストランへお招きすることになりました。荷が重いと思ったのか、同伴者として母のみならず、娘の私と、他にも親しい友人を呼び集め、合計8人の宴となりました。長テーブルに4人ずつが対面に並び、殿下と妃殿下は内側の席にはす向かいにお座りになりました。
まずは父自作のドライ・マルティニで乾杯。そう、実は父がどこかに「私はドライ・マルティニを特別のグラスで作るのが好きである」などと書いたためか、それを耳にされた殿下が「一度、阿川さんの作るドライ・マルティニを飲んでみたい」と仰せられたのですが、まさか粗末な拙宅にお招きするわけにもいかず、懇意にしているレストランの個室を予約して、お招きした次第です。
私は添え物、というか、父が困ったときの助手役という覚悟で臨んだつもりではありましたが、黙ってご飯を食べているだけでは許されません。とはいえ、積極的に話題を提供するのも憚られる。それとなく自然に、しかし粗相のないよう余計なことは言わないで、笑みを絶やさず精一杯、猫かぶりの娘を演じておりました。私だけでなく、母や他の同伴者も、同じ思いだったはず。
威圧感はないものの、自由気ままにお喋りができるといった雰囲気ではありません。どなたかが言葉を発すると、必然的に耳を傾け、ニッコリ笑って頷いて、ゆっくりグラスを傾けて、さりげなくフォークとナイフを動かして、上品そうに料理を口へ運ぶ。その繰り返しをするしかないのです。
そんな時間が過ぎるうち、私はあることに気づきました。
誰一人、会話の外に置いてきぼりにならない
殿下がご自分の右方向の3人に向かってお話を始められると、いつのまにか妃殿下もご自身の右方向の3人に語りかけていらっしゃる。そして何かの拍子に話題が移り、殿下がご自身の左側の3人に顔をお向けになるや、さりげなく妃殿下がご自身の左側の3人のほうへ向けて語りかけられるのです。言っている意味、わかります?
つまり、殿下妃殿下が交互に逆の対角線方向へお言葉を投げかけるおかげで、常に誰一人として、会話の外に置いてきぼりにならないのです。それもごく自然にまんべんなく。そしてご自身が話題を提供されたり一方的にお喋りになったりするだけでなく、相手の言葉に優しく耳を傾けて、楽しそうに反応なさっておられるではありませんか。
おお、これぞ皇室のご教育というものかと、私はその見事な会話術の妙に感動してしまいました。
普通は大人数の宴でこんなふうにまんべんなく会話が回ることはめったにありません。どうしても声の大きい人や、その会でいちばん偉い人、あるいは地位の高い人、あるいは私のような喋り過ぎる人間を中心に会話は進み、気がつくと、ひと言も発することなくその場を後にする人がでてきてしまいます。
もちろん、「私は自分が喋るより人の話を聞いているほうが好きなの」という人も中にはいるでしょう。しかし、それにしても、ごく一部の人間に会話が偏ってしまうのは集いの姿として美しくはない。
そこで庶民としては、一つの方策を思いつきました。すなわち、口数の多くなさそうな人はできるだけ真ん中の席に座らせて、声が大きくてよく喋りそうな人にはテーブルの端に座っていただく。そうすれば、無口な人は積極的に言葉を発せずとも、左右から飛んでくる話を受け止めつつ、ときどき口を挟むタイミングをつかむことができると思われます。
幹事役となったら、まず席順を考慮して、それでも発言回数が偏ってしまったら、いちばん無口な人から、半ば強制的に自己紹介や近況報告をさせるというのはいかがでしょうか。
会話が激しく偏ったとき、参加者全員に1人ずつ、短いスピーチをさせるというのは、実際に経験したことのある私としては有効だと思っております。スピーチ嫌いの日本人も、1分ほどの独白ならば、なんとかできるものですよ。
阿川 佐和子 作家
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