賃金上昇に、企業の〈強制ホワイト化〉まで…これからの日本経済に「労働力の希少化」がもたらすスゴイ効果【経済評論家が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年5月25日 9時15分
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(※写真はイメージです/PIXTA)
少子高齢化が進展する日本では、労働力も「希少化」しています。一般的には、労働力が少なくなることは「困った事態」だと認識されますが、いまの日本経済を強制的に改革する、重要な要因になるとも考えられます。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。
労働力余りの時代から「労働力希少」の時代へ
バブル崩壊後の長期低迷期、日本経済は失業問題に悩まされていました。失業対策として巨額の公共投資が行われたり、日銀が金融緩和を繰り返したりしましたが、なかなか景気は回復せず、失業問題が解決しないばかりか、賃金や物価まで下がり、「デフレ」に苦しんでいたのです。
しかし、アベノミクスで景気が回復すると、一転して労働力の需要が供給を上回るようになりました。景気の回復は小幅で緩やかなものでしたが、事態は一変したのです。それは、少子高齢化によって少しずつ労働力の供給超過が縮小していたときに、需要増加が起きたからです。
川の水が少しずつ減っていることに人々が気づいていなかったとき、小規模な渇水が起きて川底が顔を出したとします。それを見た人々は驚くでしょうが、水流が急に激減したわけではなく、顔を出した川底が、人々に水の減少を気づかせる契機となった、ということですね。
ちなみに、労働力の需要超過のことを労働力不足と呼ぶ人が多いのですが、筆者はできるだけ「労働力希少」という言葉を使うようにしています。不足というのは否定的な語感なので、肯定的な語感の「希少」を使いたいからです。
そもそも、労働力が不足しているという言葉自体、少し奇妙です。経済学によれば、需要と供給が一致する水準に価格が決まるわけで、価格さえ適正なら需要と供給は一致するはずなのです。つまり、労働力不足だと感じている人は、賃上げが足りないのです。
「ダイヤモンドを1円で買いたい」と大声で叫んでも売り手が見つからない場合、「ダイヤモンドが不足している」とはいいません。それと同じことでしょう。
労働力希少の先にある「賃金上昇」「企業ホワイト化」の世界
労働力希少は、企業の経営者にとっては困ることでしょうが、労働者にとっては望ましいことです。第一に、失業してもすぐに次の仕事が見つかります。失業者は、収入という面のみならず、「自分は社会に必要とされていないのではないか」といった気持ちの問題も含めて、可哀想な人ですから、そうした人が減るのは大いに望ましいことでしょう。
次に「ワーキング・プア」の所得が上がります。バブル崩壊後の就職氷河期に正社員になれず、アルバイトで生計を立てている、労働者の中の恵まれていない人の時給が上がるのです。労働力が希少となれば、労働力の価格に上昇圧力がかかりますが、賃上げしなくても辞めない正社員より賃上げしないとすぐ引き抜かれる非正規労働者の方が賃金上昇圧力は強いでしょう。
ブラック企業がホワイト化していくことも期待されます。失業者が多い時は「辞めたら失業者だよ」という脅しに屈していた人々が、次々とブラック企業を去っていくので、ホワイト化せざるを得ないのです。
日本経済にとっても、労働力希少が望ましいといえるわけ
日本経済にとっても、労働力希少は望ましいことです。第一に、失業対策として無駄な(失礼、効率の悪い)公共投資を行なう必要がありません。第二に、日本経済を効率化させる力が働きます。
失業者が大勢いた時代、飲食店はアルバイトに皿洗いをさせていましたが、労働力が希少になると、皿洗いのアルバイトが集まらないので飲食店は自動食器洗い機を導入しました。こうして日本企業は効率化していったのです。
労働力が希少になれば、高い賃金の払えない企業から、高い賃金の払える企業に労働力が移っていくでしょう。これは、非効率な企業から効率的な企業への移動でしょうから、日本経済全体を効率化させると期待されます。
労働力が流出していく企業の経営者にとっては死活問題でしょうが、労働力が「足りない」とすれば誰かが我慢をする必要があるわけで、それなら効率的な企業より、非効率な企業に我慢してもらうほうがよいですよね。
長い間、日本企業は値上げ恐怖症に苦しんでいました。値上げすると客が逃げるので値上げできず、賃上げができなかったのです。ここに来てようやく、値上げをして賃上げする企業が増え始めました。賃上げできない企業から賃上げできる企業へと労働力が移動することが期待されるわけです。
アベノミクスの3本の矢は、財政政策と金融政策で需要を増やし、成長戦略で日本経済を効率化して供給を増やそう、というものでした。成長戦略は残念ながら大した効果をあげませんでしたが、皮肉なことに、需要が増えて労働力が希少になったことで日本経済が効率化した、というわけです。
「労働力が不足しているから外国人労働者を受け入れよう」という人は多いのですが、筆者は反対です。労働力が希少でなくなってしまうからですが、別の機会に詳述します。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
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塚崎 公義 経済評論家
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